空間除菌、コロナ禍での科学リテラシー

空間除菌には科学的な根拠はない

2019年からの新型コロナウイルスの世界規模の流行により身の回りの消毒に関して関心が高くなっています。関連する商品があふれてきている昨今ですが、部屋に置いたり首にかけるだけで新型コロナウイルスを99%取り除けるかのように宣伝するいわゆる”空間除菌”という効果を宣伝する商品が販売されています。

除菌とは細菌やウイルスを減少させる効果のことです。空間除菌というと部屋の空気中の細菌やウイルスを減らしてくれる、取り除いてくれると解釈できます。実際そのように想像しませんか?

空間除菌という言葉が非常にあいまいで、消毒剤を空間に噴霧して”空間除菌”と標ぼうするメーカーもあれば、空気をファンで取り込み次亜塩素酸水に通して空間除菌と言うメーカーがあります。後者のメーカーの中には空気中に浮遊するウイルスや細菌を99%取り除いたとデータを出していますが、

今現時点で新型コロナウイルスに対する”空間除菌”効果が確認された製品は無く、またそのような医療機器も承認されていません。

一部の空間除菌製品がとりがちな手法ですが、

厚生労働省は消毒剤を空間に噴霧しないように注意喚起しています。

科学リテラシーは学歴や所属で図れない、間違いが起こりやすい

そんな中、2021年5月にスポーツ庁が空間除菌をうたう空気清浄機を購入したことで問題視されました。

新型コロナウイルスへの感染予防を目的とした、空間除菌”可能な”空気清浄機の購入を正当化すると、あらゆる空間除菌商品にお墨付き感を与えかねないからです。”空間除菌”と書いてあるしスポーツ庁も使っているから有効なんでしょ?と。

この出来事により”科学リテラシー”という言葉がTwitterトレンド入りしました。
リテラシーには”理解して活用できる”という意味あいがあり、〇〇リテラシーというと〇〇を理解し、発言できる、行動できる能力という意味でよく使われます。結局は〇〇の本物と偽物がわかる能力とも言い換えられます。今、科学リテラシーを持つためにはどうしたらよいか。

メーカーの表示する効果をうのみにせず厚生労働省や消費者庁からの情報発信を優先することをおすすめします。必要に応じて複数の専門家が見解をまとめている各種学会・団体が推奨するものも参照してください。

そうすることで今は科学リテラシーを持つことが出来、まがい物を使用する機会がかなり減るはずです。
「チラシにコロナに効くと書いてあるから効果がある!製品のラベルにそう書いてあるなら効果がある!」と信じて疑わず反射的に購入してしまっては少々危険です。

ちまたでは科学的根拠がなくとも新型コロナウイルスの感染予防に効果があると宣伝している製品が広く販売されており、商品を買うこちらにしてみれば何が本当かわからないわけです。筆者は薬剤師なので普段から効果が科学的に証明されている薬を販売しているので、科学的根拠がなくても効果を宣伝して販売される空間除菌製品の存在には強く疑問を感じます。

新型コロナウイルスに対する空間除菌効果を訴える製品ならそれは国からの承認が必要な医療機器です。そして現在までにそのような効果で国に承認された医療機器はありません。消費者庁はホームページ上でこれらの科学的根拠のない空間除菌製品の情報を公開しています。

空気清浄機も怪しいものが多い”コロナへ効果”は買わなくてよい

空気清浄機については、現時点においてコロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするものは景品表示法や健康増進法の規定に違反するおそれが高いとされています。以下消費者庁ホームページより引用します。

令和2年3月10日
新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について

 消費者庁は、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大に乗じ、インターネット広告において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする健康食品、マイナスイオン発生器、空間除菌商品等(以下「ウイルス予防商品」という。)に対し、緊急的に景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大示)の観点から改善要請等(別紙1)を行うとともに、SNSを通じて一般消費者への注意喚起(別紙2)を行いました。

新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くものであると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。 

出典: 消費者庁 News release "新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について" 令和2年3月 10 日
https://www.caa.go.jp/notice/assets/200310_1100_representation_cms214_01.pdf

消費者庁が公表する資料によると、2020年度には国からは措置命令33件、課徴金納付命令15件、都道府県等からは8件でした。このように実際に国から製造販売元に指摘がなされる事例がみられます。

驚くべきはその実態で、ある空気清浄機については、この機器が発生させるマイナスイオンの効果で空気中に浮遊するウイルスを99.9%除去し、新型コロナウイルス感染を予防するかのような宣伝をしていました。同じ資料の中では下記のような記載があります。

中略

ウイルス感染を予防する効果、浮遊するインフルエンザウイルスを99.9%除去する効果、脱臭効果、並びに新型コロナウイルス感染を予防する効果が得られるかのように示す表示をしていた。

中略

消費者庁が、同社に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社は、当該期間内に表示に係る裏付けとする資料を提出したが、当該資料はいずれも、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないものであった。

消費者庁 News release “新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品 の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起 について” 令和2年3月 10 日
https://www.caa.go.jp/notice/assets/200310_1100_representation_cms214_01.pdf.

消費者庁より指摘を受けたこの製品については実態として、新型コロナウイルス感染を予防する効果が得られることを証明するに足るデータを持たないまま、効果を宣伝し販売していました。つまりは、実態をともなわないイメージで販売していたということです。この新型コロナウイルス感染に関するものにかかわらず、毎年数十件から時には百件近い法的措置が消費者庁からなされています。通常運転でこれなので、この新型コロナウイルスのパンデミックに便乗して効果を盛る業者が現れるのは必然なわけです。効果の表示に問題のある商品はいつでもどこでも遭遇すると思ったほうがいいでしょう。

先に述べた通り科学リテラシーの大切なポイントの一つが、”販売業者の出すキャッチコピーをうのみにしない”ことです。

下記に空間除菌関連のものを消費者庁から抜粋および要約しました。メーカーのキャッチコピーの大胆さもさることながら、結局は科学的根拠はなく”空間除菌”ができるかのようにほのめかしていました。簡単に言えば効果があると言い切るか、効果があるかのような雰囲気は出していました。消費者庁から表にあるように命令がだされています。表の概要にあるようなキャッチコピーを見たら身構えたほうがいいでしょう

概要表示・広告媒体命令
マイナスイオンによる空間除菌(据え置き型)<宣伝媒体>
パンフレットと自社ブログ
<表示>
空気中に浮遊するウイルス、菌、ダニの死骸やフンなどのアレルギー物質を分解し不活性化する効果、浮遊するインフルエンザウイルスを99.9%除去する効果、浮遊するカビ菌の分解、除去及び付着したカビ菌の成長の抑制をする効果、並びに衣類等の付着臭を分解、除去する効果が得られるかのように示す表示をしていた。
<科学的根拠>
消費者庁が提出を求めた科学的根拠を示す資料の提出はされたが科学的根拠があると認められなかった。
商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること。
イ 再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。
ウ 今後、表示の裏付けとなる合理的な根拠をあらかじめ有することなく、前記⑵アの表示と同様の表示を行わないこと。
 ↓
※webサイトは現在非公開
首から下げるだけで空間除菌<表示>
容器包装において、「塩素成分で空間のウイルスから除菌・除去」
略 あたかも、本件商品を身に着ければ、身の回りの空間におけるウイルスや菌が除去又は除菌される効果を得られるかのように示す表示をしていた。
<科学的根拠>
消費者庁が提出を求めた科学的根拠を示す資料の提出はされたが科学的根拠があると認められなかった。
上記同様の命令
※同社webサイトから商品は削除されている

※参考:景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表(令和3年3月31日現在) https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11670025/www.caa.go.jp/notice/entry/023676

空間に噴霧するタイプは医療の常識としてあり得ない

空間に噴霧するタイプの空間除菌商品については厚生労働省ホームページにて注意喚起がなされています。次亜塩素酸水の空間噴霧商品がいくつか販売されていますが、ウイルスの除去作用について効果は認められていないからです。

加えて空間に消毒剤を噴霧すること自体をさけるべき、というのは世界では共通認識です。

消毒剤の空間噴霧に関しては、世界保健機関(WHO: World Health Organization)は屋外でも推奨されず、吸引すると人体に有害であり人がいる室内ではいかなる状況においても行わないように注意喚起しています。米国疾病予防管理センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)も消毒剤の空間噴霧は推奨していません。

厚生労働省はこれらの国際的な知見を踏まえ次亜塩素酸ナトリウムの空間噴霧は絶対に行わないように注意喚起をしています。
次亜塩素酸ナトリウムと異なる組成であり比較的安全であるという主張で、次亜塩素酸水を含む消毒液の空間への噴霧が有効と主張するメーカーもありますが、換気によるウイルス排出や、三密回避による感染予防策にとって代わるものではありません。むしろ噴霧された空間にいる人に健康被害が及ぶリスクのほうが出てしまう可能性は否定できません。

空間のウイルス除去についてはこまめな換気を優先したほうが良いでしょう。消毒剤の空間への噴霧をもってしても人が手をふれるドアノブ、接客につかうカウンター、テーブルなどの環境の除菌はできません。環境のウイルス除去については毒剤によるふき取りが必要です。

先に述べた次亜塩素酸水も 接客につかうカウンター、テーブルなどの清拭の際には、新型コロナウイルスに対する効果は一定の濃度以上で確認されています。次亜塩素酸水も使い方次第ということです。

空間のウイルスは換気で排除しましょう

空間のウイルスについての対策はこまめな換気です。部屋の二方向の窓を一時間に二回、数分全開にしましょう。今のところこれ以上効果のある空間のウイルス対策はありません。

ホールなどの窓のない大きな空間は高い換気能力のある空調を使います。

消毒剤を空間に噴霧しても、壁やイスや受話器に付着した鼻汁や唾液などの感染性のある分泌物や、折りたたまれた衣類や道具に付着したウイルスを除去できるわけではなく、空間除菌に頼りこれらを見逃すリスクもあります。いくつかの国では消毒剤を局所に噴霧する機器が承認されていますが、それでさえ机やドアノブから体液などを除去するふきとりは必要です。

夏季は換気に注意点があります。外気が室内より暑いときは窓を開けることにより室温が高くなりますので、エアコンを併用しつつ室温をできれば25度以下にして熱中症を予防しましょう。窓を開けると室温がどうしても上がってしまうときはどうするか。

こういう時は窓を閉め切ってエアコンをかけて、HEPAフィルタ付きの空気清浄機を補助的に使用することもできます。HEPAフィルタは空気中の微粒子の除去が期待できます。HEPAフィルタは直径0.3μmの空間中の粒子を99.97%以上補足できるフィルタですが、飛沫から水分が蒸発したものになるとそれ以下の大きさにはなるのであくまで補助的な位置づけです。”HEPAフィルタ””空気清浄機”で検索すると製品がいくつかヒットします。高価な製品ではありますが。

冬季は逆に室温が下がりすぎないように工夫が必要で、暖房の近くの窓を一か所でだけ少しあけて常時換気し、室温が暖房によって維持できれば効果的な換気ができます。換気すると室温を18度以上に維持できないときは、HEPAフィルタ付きの空気清浄機を補助的に使用しましょう。また寒冷地で外があまりにも寒いときは人がいない部屋の窓を開け、廊下を経由し少し暖まった新鮮な空気を人のいる部屋に取り入れることも、室温を下げづらくする工夫です。
※参考:厚生労働省ホームページ新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q1-2

”不安”は利用される、厚労省や消費者庁の情報を見て!

取り上げた空間除菌製品に限らず、コロナウイルス感染予防に用いる製品は商品の説明をよく読み、購入する前に厚生労働省や消費者庁のホームページをチェックして類似した商品に対して何らかの注意喚起がなされているかどうか確認することをお勧めします。

本稿執筆にあたり参照した新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)はぜひご覧ください。長いですが、今後の家庭や職場での感染予防に役立つと思います。
※参考:新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html

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