
毎年4月に変わる“薬価改定”とは?2025年度の仕組みと家計への影響をやさしく解説
日本では医療用医薬品の価格は製薬会社が決められません。薬の値段は国が決めていて、これを「薬価(やっか)」と呼びます。薬価を定期的に見直す仕組みが「薬価改定」です。以前は2年ごとでしたが、2021年から毎年4月に改定するルールが定着しました。見直しのときには、製薬会社がつけた価格、実際に市場で取引されている平均価格、ジェネリック(後発医薬品)の普及状況、海外での価格などを参考にします。目的は、医療費を必要以上に増やさず、公平に薬の値段を調整することです。
この改定は、患者さんの窓口で払う金額や病院・薬局の収入に影響します。家庭にとっても、薬代だけでなく保険料や高額療養費制度の計算に関わってきます。この記事では、2025年度の改定でどんな仕組みや変更があったのかを紹介し、さらに医療や家計にどんな短期的・長期的な影響があるのか、そしてジェネリックを使う工夫や薬剤師への相談方法など、生活に役立つ対策をわかりやすく解説します。なお本文で示す年度別の数値・対象範囲等は厚生労働省公表資料に基づく公表値であり、詳細な表番号・ページは該当資料を参照してください[1][2][3][4]。
薬価改定とは何か――目的と年間改定への移行背景
薬の値段(薬価)は、国の医療保険で「薬にいくら払うか」を決めた公定の価格です。この薬価は、実際に市場で取引されている平均的な仕入れ値をもとに、消費税や安定供給のための調整を加えて計算されます。具体的な計算方法や細かい調整の幅は厚生労働省の通知に基づいて行われ、毎年4月に見直されます。2025年度分も4月1日から新しい薬価が適用されています。[1][2]
背景には、「医療費をできるだけ抑えながら、必要な薬を適正な価格で提供する」という目的があります。政府は2016年に「薬価制度の抜本改革」を打ち出し、市場での実際の価格を反映させる方針を決めました。それ以降、毎年改定する仕組みが整えられ、一般的に偶数年は広範囲での改定、奇数年は“中間的な改定”で対象が限られるという形で運用されています。[3]
現在の日本の年齢と人口の分布からして放置すると医療費はどんどん上がり続けます。価格の調整のみではなく仕組みの変更も必要ですが、大きく変更できていないのが現状です。
改定のときに特に重視されるのは、次の4つのポイントです。これらは厚生労働省の「薬価算定の基準」に基づき毎年度の改定に反映されます[4]。
- 市場価格とのズレの大きさ(公定価格と実際の取引価格の差)
- 新しい薬の価値評価(新薬を適切に評価する仕組み)
- ジェネリックの普及状況(同じ成分の薬をまとめて価格整理する仕組み)
- 海外価格とのバランス(日本の価格が極端に高すぎたり安すぎたりしないように調整)
2025年度の改定ポイント――仕組みと評価基準の変化
平均乖離率とは、薬の「国の定価」と「実際の市場価格(税抜き)」の差を割合で表したものです(例:定価1,000円に対して市場で950円で取引されていれば、差は50円で、乖離率は5%)。重要なのは、ここでは消費税は含めません。消費税を含めて計算すると、税率の変化に左右されてしまい、制度が本来狙っている「価格のズレ」を正しくとらえられなくなるからです。

薬価の決定プロセス自体は、税抜きの市場価格に消費税分を後から上乗せしてから、さらに流通や安定供給の調整幅を加えて薬価が算定されます。つまり、乖離率は税抜きで判断し、税金の分は最終的な価格表示で加える形です[5]。
また、患者さんが窓口で支払うときは「薬価」で計算され消費税はかかりません。
2025年度(令和7年度)の薬価改定は、2024年に行われた調査の結果(薬の定価と取引価格に平均で5.2%の差があったと公表)をもとに進められました。薬の種類ごとに見直しの基準が分けられており、新薬はその差が5.2%以上、特別な評価を受けていない新薬は3.9%以上、ジェネリックがある先発薬(長期収載品)は2.6%以上、後発薬やその他の薬は5.2%以上で見直しの対象となりました。こうした基準の違いは、新薬を評価したり必要な薬を安定的に届けるための配慮から設けられています[2][3]。
この見直しでは、いろいろな調整の仕組みが組み合わさっています。たとえば、ジェネリックの価格帯の整理、薬があまりにも安くならないように最低価格を守る仕組み、値段が低すぎて作るのが難しい薬を例外的に引き上げる仕組み、新薬に対する評価を含めた加算制度(累積額の控除を含む)、そして日本と海外の価格を比較して調整する仕組みなどが使われています[2][3]。
一方で、長期収載品に対する一部の値下げルールや、市場が急速に広がった薬への追加的な見直しについては、2025年度では適用範囲が限定され、薬ごとに個別に対応する方式でした[3]。
発表されている主な数字としては、平均乖離率は5.2%、薬剤費全体では約2,466億円の削減(そのうち国の負担分は約648億円)が見込まれています。不採算薬の再算定では182成分・429品目が値上げまたはそのまま維持になり、最低薬価の仕組みは680成分・3,231品目に適用されました。新薬の評価に関する累積額控除は、21成分46品目に適用されており、約562億円分が差し引かれました(比較薬として算定されたものも含めると、7成分12品目・約100億円分)[2][3]。
さらに、海外価格との調整や、改定時の特別な加算(例:小児向け効能が追加された場合など)は、毎年一律に使われるものではなく、その薬が新たに承認されたときや特定の再算定の場面に限って使われる仕組みです。2025年度の具体的な適用状況は、厚生労働省の公開資料をご確認ください[2][4]。
家計への影響――薬の窓口負担・保険料・医療機関の実務
薬価改定は薬剤料(公定価格)の見直しであるため、窓口での支払い(自己負担1〜3割など)の「基礎になる単価」が変わります。自己負担は薬剤料と技術料(調剤料等)を合算して計算されるため、薬価だけが変わっても自己負担額が同じ割合で上下するとは限りません。特に中間年改定では調剤技術料等の大規模な見直しが行われないことが通常ですので、その点も考慮してください[9].
2024年10月から導入された仕組みとして、「後発医薬品がある先発医薬品(長期収載品)を患者の希望で選ぶとき」に、先発・後発の差額の25%相当を選定療養(特別料金)として追加で支払う制度があります(医療上の必要性や在庫がない場合は適用除外)。例)先発の薬価が1,500円、後発が500円で差額が1,000円の場合、選定療養として差額の25%=250円が追加で請求されます。差額や対象は薬価改定で変わるため、選択時に医師・薬剤師へ「特別料金がかかるか」「後発品でも効果・安全性は問題ないか」を確認してください[6][7][8].
高額療養費制度の適用や保険料への影響は中長期的です。薬価改定で保険者の薬剤費が抑えられれば財政改善に寄与し、将来的な保険料や給付の安定化に結びつく可能性はありますが、保険料は総医療費や賃金動向など複数要因で決まるため、薬価のみで直ちに保険料が下がるわけではありません(2025年度の影響額は公表値で▲2,466億円)[3].
医療機関・薬局の実務面では、告示後にシステム更新・棚卸・レセプト単価の切替を短期間で行う必要があります。処方・調剤のタイミングで旧薬価・新薬価の適用が分かれることがあるため、3月末〜4月初の期間は納品や在庫の切替に時間を要する場合があり、窓口での説明や明細の単価が変わることがあります。最新の薬価基準リストや収載品目は厚生労働省の総合ページ等で随時確認してください[1][5].
家庭でできる対策――ジェネリック選択と薬剤師・医師への相談方法
薬価改定は避けられませんが、家計への影響を抑えるために次の点を押さえておきましょう。
- ジェネリック(後発医薬品)を前向きに検討する
- 薬ごとに後発品の有無や価格差が異なります。薬剤師に「この薬の後発品はありますか?選ぶとどのくらい安くなりますか?」と具体的に尋ねましょう。
- 長期収載品を希望して先発品を選ぶ場合は選定療養(差額の25%相当)がかかる可能性があるため、事前に説明を受けて納得して選択してください[6][7][8].
- 選定療養の「医療上の必要性」があるときの例外を理解する
- 効能・効果の差、既往歴や副作用歴、相互作用、剤形の事情などで先発品が望ましい場合は選定療養の対象外です。自己判断で切り替えず、医師・薬剤師と安全性・有効性を確認しましょう[7].
- 服薬の続けやすさも費用対効果
- 飲み間違いや飲み残しは無駄になりやすいので、一包化や色・形の工夫、飲む時間の調整など続けやすさについて薬剤師に相談しましょう。
- 高額療養費制度を把握しておく
- 月の医療費が高くなりそうなときは、限度額適用認定証を事前に申請すると窓口負担を抑えられます。家族の年齢や所得で上限が異なる点も確認してください[9].
- 改定時期の在庫・処方日数調整
- 改定直後は薬価が変わるため納品・在庫の切替に時間を要することがあり、かかりつけ薬局と在庫・取り寄せの見通しを相談し、無理のない処方日数で調整しましょう。
- 3月月末は基本的には薬価改定前に医薬品の在庫は品薄になります。受診時期はここを避けるとスムーズに受け取りができそうです。
最後に。薬価改定の狙いは、限られた財源で医療の質を守り、必要な薬を安定的に届けることです。2025年度改定ではイノベーション評価と国民負担の軽減を両立させる観点から不採算品や最低薬価の調整が行われています。本文で示した公表値・運用の概要は厚生労働省の公表資料に基づくため、実務上の細部や最新の正誤情報は該当資料(参考文献[1]〜[4]等)の当該箇所を確認してください[2][3][4].
薬価改定の大義名分とは裏腹に医薬品供給の現場は危機に瀕しています。製造販売の停止。生産量の落ち込み。薬価改定が現場目線で最適解を導けているとは言えませんが、医療費の増大にどう歯止めをかけるか喫緊の課題と言えます。
参考文献
引用資料
- 厚生労働省. 令和7年度薬価改定について(総合ページ). 2025-03-07. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00063.html
- 厚生労働省. 令和7年度薬価基準改定の概要(報道資料・PDF). 2025-03-07. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001434743.pdf
- 厚生労働省. 令和7年度薬価改定の骨子(PDF). 2024-12-25. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001364392.pdf
- 厚生労働省保険局. 薬価算定の基準について(保発0219第1号)(PDF). 2025-02-19. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001416107.pdf
- 厚生労働省. 薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報(令和7年適用). 2025-07-16更新. Available from: https://www.mhlw.go.jp/topics/2025/04/tp20250401-01.html
- 厚生労働省. 後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について. 2024-10-01開始. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html
- 厚生労働省広報誌. 「長期収載品の選定療養」導入Q&A(広報誌『厚生労働』2024年10月号). Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202410_004.html
- 厚生労働省. 保険外併用療養費制度(選定療養)の案内ページ. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/index_00007.html
- 厚生労働省. 高額療養費制度を利用される皆さまへ. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
- 厚生労働省. 後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について). Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_21060.html
- 厚生労働省. 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会 議事録(第232回ほか). 2024-12-20. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_49351.html