
減薬をサポートする薬局のサービス|服用薬剤調整支援料1・2とは?
高齢化や多疾患併存に伴いポリファーマシーや薬の副作用が問題となる中、薬局が提供する「服用薬剤調整支援料1・2」は、患者の安全で適正な薬物療法を支援する重要な仕組みです。服薬状況の評価、薬剤師による面談・服薬指導、かかりつけ医との連携・処方提案などを通じて、不要薬の減薬や投薬の重複解消、副作用予防を図ります。支援料の算定要件や対象、実施プロセスを理解することで、患者・医療機関・薬局が連携して安全な減薬を推進できます。
薬を減らせる可能性がある?服用薬剤調整支援料とは
「最近、薬の数が多くて不安」「同じような薬を飲んでいないかな?」。そんな声に応えるのが、薬局の減薬支援です。日本では高齢の方を中心に、5剤以上の併用(ポリファーマシー)が増えています。薬が必要以上に多いと、ふらつきや眠気、便秘、腎機能の悪化、低血糖、出血などの有害事象が起きやすくなります。入院や転倒のリスクも上がります[1–6]。だから「必要な薬は続け、不要な薬は減らす」ことが大切です。これを専門的に進める枠組みが、調剤報酬の「服用薬剤調整支援料1・2」です[1]。
仕組みの狙いはシンプルです。薬剤師が患者さんの薬を全体として見直し、医師と連携して、重複や相互作用、効果が薄い薬、害が上回る薬を整理します。患者さんの目標(眠気を減らしたい、トイレを楽にしたい、転ばないでいたい)に合わせて、段階的に量や種類を調整します。漫然と「全部やめる」ことはしません。やめると危険な薬は慎重に計画を立て、必要な薬は続けます[2–6]。
服用薬剤調整支援料の主なポイントは次のとおりです[1,2,6]。
- 対象:多剤併用や副作用の疑いがある患者さん。高齢者に限らず、慢性疾患で複数の薬を飲む人も含まれます。
- 内容:薬剤師が詳細な聞き取り、残薬確認、手帳やレセプト情報の照合、相互作用・重複・用量過大のチェック、優先順位をつけた「減薬・切り替え・継続」の提案を作成。医師に文書または電子的に情報提供し、合意のうえで処方を調整します。
- 成果:薬が減るほど良いとは限りません。目標は「安全で質の高い薬物療法」です。結果として薬数が減る、用量が下がる、1日投与回数が減る、重い副作用リスクが下がる、自己負担が下がる、などが期待されますが、臨床結果や費用効果は個々のケースで差があります[3–6]。
減薬の効果を示す研究は、処方の不適切さを減らす点については一貫した成果が報告されています。一方で、転倒やせん妄、入院・死亡などの臨床アウトカムへの影響は研究によりばらつきがあり、一律に改善効果が示されるわけではありません[3–6]。とくに睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)、抗コリン作用の強い薬、重複した降圧薬や鎮痛薬、胃薬の長期連用などは、見直す余地が大きい分野です[2,5,6,10]。
薬局での流れは次のイメージです。
- 準備:お薬手帳、残っている薬、健康診断や検査の結果、普段の体調メモを持参。
- 面談:困りごと(眠気、便秘、むくみ、ふらつき、朝起きられない等)や飲みやすさ、飲み忘れの理由を話します。
- 評価:薬剤師が重複や相互作用、腎機能や体重に対する用量の妥当性、中止時の離脱リスクを評価。
- 提案:続ける薬、減らす薬、やめる順番、やめ方(テーパリング:段階的減量で離脱や再燃を避ける方法)、代替策(生活習慣や他薬)を整理した計画を作成。
- 連携:医師に文書で提案し、同意が得られたら医師が処方を変更します。患者さんと減薬の合意形成(いつ、どれを、どう減らすか)をします。テーパリングの計画は薬剤師が安全性に配慮して作成・管理します。
- フォロー:副作用の再燃や離脱症状に注意し、必要に応じて戻す選択肢も準備。電話や次回来局で評価を継続。
この一連の活動に対し、要件を満たせば薬局は「服用薬剤調整支援料1・2」を算定することになるので言っての自己負担は発生することがあります。患者さんには、薬の安全性が高まり、生活の質が上がる可能性があります。無理なく、計画的に、チームで取り組むのがコツです[1–6]。
かかりつけ薬局を持つことでスムーズに減薬が進む理由
減薬は「その場で一気に」ではなく、「段階的に」「計画を立てて」行います。だからこそ、ふだんの様子を知っている「かかりつけ薬局」の存在が大きな助けになります[2,6,9]。
かかりつけ薬局の強みは次のとおりです。
- 全体像の把握:複数の医療機関からの処方でも、薬局に情報が集まれば重複や相互作用を早く見つけられます。市販薬やサプリの確認も可能です[2,6,9]。
- 小さな変化に気づく:眠気が強い、ふらつきが増えた、むくみが出た、咳が長引く、食欲が落ちた、排尿回数が変わったなど、生活の変化を定点観測できます。こうしたサインは薬の見直しの合図です[2,6]。
- 離脱症状やリバウンド現象への備え:睡眠薬、抗精神病薬、胃薬(PPI)などは急にやめると症状がぶり返すことがあります。段階的にゆっくり減らす計画の作成・管理を通して安全に進めます[2,5,6]。
- 生活に合わせた調整:朝は忙しい、夕食が遅い、飲み忘れが多いなど、暮らしに合わせた投与時刻や剤形変更(OD錠、配合剤、貼付剤など)を提案できます[2,6]。
- 医師との迅速な連絡:多く処方箋を応需してふだんから連携がある医師には、薬歴と根拠をそろえた提案書をスムーズに送れます。提案の質とスピードが上がります[1,2,6]。
実際、国や学会のガイドラインは、減薬を「チーム戦」として進めることを強く勧めています。患者・家族・医師・薬剤師・看護師・介護職が同じ目標を共有し、段階的に試し、結果を振り返り、次につなげます。これにより、有害事象を減らし、満足度が上がることが報告されていますが、臨床アウトカムの改善については研究ごとに結果が異なる点に留意が必要です[2–6]。
かかりつけ薬局をうまく使うコツは3つです。
- 同じ薬局に通う:分散すると情報が分かれます。1冊のお薬手帳に集約しましょう。
- 困りごとを遠慮なく伝える:眠い、便秘、物忘れ、夜間頻尿、むくみ、体重変化など。些細なことが手がかりです。
- 目標を共有する:「日中に眠くなりたくない」「夜はぐっすり眠りたい」「転ばず外出したい」など、優先順位を決めます。
こうした地道なやり取りが、過不足のない処方に近づけます。結果として、薬の数が減ったり、量が下がったり、支出も軽くなることがありますが、薬剤費や臨床効果は個別差がある点に注意してください[3–6,9]。
マイナ保険証で併用薬を一括把握|薬局ができるサポートを強化
「いま、全部で何を飲んでいますか?」。減薬の第一歩は、この問いに正確に答えられることです。ところが、複数の医療機関を受診し、市販薬やサプリも使うと、全体像の把握はむずかしくなります。ここで力を発揮するのが、マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)です[7,8]。
マイナ保険証を使うと、薬局はオンライン資格確認等システムを通じて、患者さんの同意のもとで、過去の調剤情報や特定健診情報の一部を確認できます。電子処方箋と組み合わせれば、処方・調剤の履歴を時系列で追い、併用薬の重複や禁忌の組み合わせをより正確に見つけやすくなります。ただし、参照できる検査値や健診情報は限られており、すべての検査値(例:詳細なeGFRや個別の血液検査値)が常時閲覧できるわけではない点に注意が必要です[7,8]。電子処方箋でなくともマイナ保険証で受付をするだけで併用薬情報が一気に薬局に入るので相互作用のチェックシステムですぐに禁忌などが確認できて正確性が増します。
ポイントは次のとおりです。
- 併用薬の見える化:過去の薬歴が画面で一覧化され、飲み合わせのチェックが精度よく、短時間でできます。
- 検査情報の活用:同意のもとで参照可能な特定健診等情報(例:血圧、血糖、脂質など)や、医療機関から共有された検査値がある場合は、それらを参考に用量・薬剤選択を見直せます。すべての検査値が自動的に取得できるわけではありません。
- 緊急時にも役立つ:旅先やかかりつけ外の受診時でも、同意があれば最新の情報にアクセスできます。
- プライバシーに配慮:情報閲覧は患者同意が前提で、閲覧は目的限定・都度同意となります。閲覧履歴も管理され、見せたくないときは拒否できます[7]。
薬局側の支援も進化しています。電子的に作成した「減薬提案書」を医療機関と安全にやり取りできる環境が整いつつあります。提案内容には、どの薬を、なぜ、どの順番で、どのスピードで減らすか、再燃時の戻し方、モニタリング項目(血圧、脈拍、血糖、睡眠日誌など)を明記します。こうした標準化は、減薬の安全性を高めます[1,2,6]。
もちろん、システムがあっても、最後は人のコミュニケーションです。患者さんの価値観に寄り添い、「やってみて不調なら戻す」という安心感を共有できるかが成功の鍵になります[2–6]。
コストは?服用薬剤調整支援料が算定されるケースと報酬の仕組み
ここが気になるところです。「服用薬剤調整支援料1・2」は、薬局が一定の要件を満たして減薬支援を行った場合に算定できる評価です。具体的な点数(=医療保険で支払われる額)は診療報酬改定のたびに見直されるため、最新の告示や通知で確認してください[1]。ここでは、算定の基本的な考え方と、よくあるケースを紹介します。
まず共通の前提です[1]。
- 対象は、併用薬が多い、または副作用の疑いがある患者さん。
- 薬剤師が面談し、薬学的評価を行い、記録を残す。
- 医師に文書(または電子)で情報提供し、処方の見直しを提案する。
- 患者さんと合意形成を行い、フォローアップを実施する。
また、最新の告示・通知に基づく主な算定の骨子(詳細は[1]の通知・疑義解釈を参照)を簡潔に示します。これらのポイントを薬剤師が確認、記録に残します。
- 患者の同意取得とその記録(同意日・同意内容、目的限定の同意)。
- 面談に基づく薬学的評価の実施・記録(残薬、相互作用、用量適正、リスク評価など)。
- 医師への情報提供(様式・提供日・提案内容・根拠の明記)。
- フォローアップの実施とその記録(評価時期、症状・検査・有害事象の確認)。
そのうえで、「1」と「2」では、評価される場面が少し異なります。実務的には次のように理解すると分かりやすいですが、算定可否の細部は通知や疑義解釈に依存します。
- 服用薬剤調整支援料1 125点 月一回まで:提案に基づき実際に中止・減量・切替等の処方調整が行われた場合。6種類以上内服から2種類減薬して4週間経過した後。3割で380円。
- 服用薬剤調整支援料2 110点もしくは90点(この指導料の実績の有無による) 3月に一回まで:臨床的な意思決定を支援する情報提供・提案を行った場合。処方変更の有無は問わない。3割で330円。
費用負担の考え方は、他の調剤報酬と同じです。患者さんは自己負担割合(1~3割など)に応じて一部を負担します。点数は改定で動くため、具体額は薬局で確認しましょう[1]。減薬により薬剤費が下がることが期待されますが、効果は個々の処方内容により異なります[3–6]。
算定のよくあるQ&A(概要)です[1,2]。
実施の質を高めるコツは、次の「3つの見える化」です。
- 課題の見える化:何が問題か(眠気、転倒、低血圧、低血糖、便秘、せん妄など)を症状と検査で明確に。
- 計画の見える化:やめ方(テーパリング表)、代替策、モニタリング項目、戻し方を紙やアプリで共有。
- 結果の見える化:減薬前後の症状と指標、薬剤費の変化を比較。必要なら次の一手を検討。
最後に注意点です。減薬は目的ではなく手段です。「薬がゼロ=善」ではありません。疾患の安定や生活の質を守るために、必要な薬は適切に続けます。自己判断で中止せず、必ず医師・薬剤師と相談しましょう[2–6]。
まとめです。服用薬剤調整支援料1・2は、薬局が減薬を専門的に支えるための仕組みです。かかりつけ薬局とマイナ保険証を活用し、医師と連携して、安全で無理のない見直しを進めましょう。あなたの「こうなりたい」という目標が、処方の最適化の出発点です。なお、STOPP/STARTなどの不適切処方判定基準は改訂が続いており、最新のガイドラインや基準を参照することを推奨します[1–6,10]。
- 厚生労働省. 令和6年度診療報酬改定 調剤報酬に係る事項(通知・疑義解釈を含む). 2024. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196045_00008.html
- 日本老年医学会. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2023. 東京: 日本老年医学会; 2023. Available from: https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/
- Scott IA, Hilmer SN, Reeve E, Potter K, Le Couteur D, Rigby D, et al. Reducing inappropriate polypharmacy: the process of deprescribing. JAMA Intern Med. 2015;175(5):827–34. doi:10.1001/jamainternmed.2015.0324
- Reeve E, Gnjidic D, Long J, Hilmer SN. A systematic review of the emerging definition of ‘deprescribing’ with network analysis. Br J Clin Pharmacol. 2015;80(6):1254–68. doi:10.1111/bcp.12732
- Rankin A, Cadogan CA, Patterson SM, Kerse N, Cardwell CR, Bradley MC, et al. Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older people. Cochrane Database Syst Rev. 2018;9:CD008165. doi:10.1002/14651858.CD008165.pub4
- World Health Organization. Medication Safety in Polypharmacy. Geneva: WHO; 2019. Available from: https://www.who.int/publications/i/item/WHO-UHC-SDS-2019.11
- 厚生労働省. オンライン資格確認等システムの導入・運用について. 2023. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08280.html
- 厚生労働省. 電子処方箋の本格運用開始について. 2023. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30726.html
- 日本薬剤師会. ポリファーマシー対策に関する手引き. 東京: 日本薬剤師会; 2021. Available from: https://www.nichiyaku.or.jp/
- O’Mahony D, O’Sullivan D, Byrne S, O’Connor MN, Ryan C, Gallagher P. STOPP/START criteria for potentially inappropriate prescribing in older people: version 2. Age Ageing. 2015;44(2):213–8. doi:10.1093/ageing/afu145