
「飲みにくい」「味が嫌い」を解決!一般名処方で可能な剤型変更とそのメリット・様々な剤型・OD錠・普通錠・内服液
内服薬の味や飲みにくさは用法通りの服用を妨げます。飲みやすい薬の方が続けられますよね。広く普及している一般名処方は成分名で処方する仕組みであり、薬局は同一成分のうち一定の範囲で製品を選定できます。薬剤師へ相談すると簡単な剤形変更(一例:普通錠→OD錠)はすぐに対応できます。用法・用量の見直しが必要な場合は処方医の同意(疑義照会)を経て実施します。薬剤師と医師は使用しやすい薬の形を考えて継続しやすい服薬を支えます。[1–4]
一般名処方とは?― 薬の名前ではなく成分で処方する仕組み
一般名処方は製品名ではなく「有効成分名」で処方する方法です。薬局はその成分を含み、効き目や吸収が同等と承認された製品を選んで調剤します。保険薬剤師は国の医療費削減のためまずジェネリック医薬品の調剤を勧めることになっています。それでも患者が希望する場合、先発医薬品を調剤します。選定療養費が別途かかるケースもあります。先発・後発を問わず、患者に合う剤型や規格を選びやすくなる一方で、すべての成分に全剤形が存在するわけではなく、在庫や流通状況に制約があります。
2000年代以降から日本では診療報酬の仕組みや一般名処方マスタ整備により、医療機関と薬局で一般名処方が広く普及しています。[2]
一般名処方の目的は主に3点。供給の安定(特定ブランド依存の回避・品薄に強い)、経済性(後発品による薬剤費低減の可能性)、利便性(選べる剤型・規格の拡大)です。[1,2]
利便性のひとつ、剤型変更と規格変更の例を示します。
- 一般名処方 【般】エスシタロプラム錠10mg 2T 分1夕食後 で選べる規格・剤型
- エスシタロプラム錠10mg「XX」 2T
- エスシタロプラムOD錠10mg「XX」 2T
- エスシタロプラム錠20mg「XX」 1T
- エスシタロプラムOD錠20mg「XX」 1T
4つのパターンがあります。この場合、水無しで薬を服用したい人はOD錠を選択できます。普通錠を選ぶこともできます。他にも薬があり錠数を減らして飲みやすくするのであれば20mg1錠にすることもできます。このように規格を変更する時は後発医薬品に限るということと変更前よりも安くなることという条件はあります。
ただし徐放錠・腸溶錠など放出制御や投与経路で薬物動態が変わる製剤は、剤型変更すると効果や副作用プロファイルが変わることがあるため、薬剤師から問い合わせて医師が効果と安全性を確認して判断します。[3,5–8]
また一般名処方による剤型変更は錠剤とOD錠は一つの分類、細粒とドライシロップは一つの分類と、同じ分類内であれば変更はすぐできますが、異なる分類に変更する場合は医師へ問い合わせて確認します。
このように一般名処方になっている処方箋による調剤は、ケースによるものの薬剤師と話すだけで飲みやすさを改善することができることがあります。医師と連携してさらに異なる剤型変更を検討することもできます。意外とパッと替えられるようになっています。
2025年秋現在、医療用医薬品は深刻な品薄です。一般名処方であれば先発後発どちらも調剤できるので待ち時間短縮につながります。経済性については原則ジェネリックを勧めることになっているので国の医療費削減に寄与します。
定義(簡潔)
- 生物学的同等性:同一剤形・同一規格で承認された製品間で血中濃度の指標(AUC・Cmax等)が一致することを示す概念。剤形が異なれば自動的に担保されない。[3]
- 徐放・腸溶:意図的に薬の放出速度や放出部位を制御する設計。砕いたり開封すると設計効果が失われる。[7,11]
- 一包化:複数薬を1回分にまとめる調剤方法。配合安定性や吸湿等に注意が必要。[9,12]
- 簡易懸濁法:一部錠剤を温湯で懸濁して投与する方法(実施条件や禁忌があり、JSHP等の手順に従う)。[8]
剤型変更ができる理由 ― 普通錠剤からOD錠へ柔軟に切り替えられる場合がある
後発医薬品は承認時に同一剤形・同一規格での先発医薬品との体内への吸収と分布に差異がほぼないことが求められます。生物学的同等性と言います。したがって、ジェネリック医薬品として承認されているならば同一成分・同一剤形の範囲で薬局が代替する根拠になります。剤形が異なる製剤間で自動的に同等性が保証されるわけではなく、添加剤や溶出特性の違いでAUC/Cmaxが変わる例があるため、剤形変更時は承認情報・溶出特性・添付文書を確認し、必要なら処方医と協議します。[3]
OD錠の評価には国内外のガイドラインや試験法があり、崩壊時間や口触り等が評価されます。「水なし投与可」とされる製品もありますが、嚥下障害や口腔乾燥のある方では少量の水で流す方が安全です。製品ごとの添付文書の指示を遵守してください。[4]
成分が同じでも、実際に各剤形が存在するかは製品ごとに異なります。患者の困りごと(大きさ・苦味・服用環境)に応じて在庫や流通を確認した上で最適な形を選びます。[3,4,7–9]

様々な剤型の特徴と使い分け(OD錠・普通錠・内服液など)
主要剤型の特徴と使い分け:[4,5,8,9,12–16,18–20]
- 普通錠
- 利点:安定で安価、においが少ない。割線は服用補助だが均等含量を保証しない場合あり。
- 欠点:大きさで飲みにくい。粉砕禁忌設計あり。
- 適応:嚥下が保たれ味に問題のない人。
- OD錠(口腔内崩壊錠)
- 利点:口どけ良好、水不要で服用できる。
- 欠点:普通錠よりも錠剤は大きくなる。口内残留でむせることがある。口腔乾燥で崩れにくい。製品の指示を確認。減薬があまりにも苦い場合はさすがに完全には苦味は隠せない。
- 適応:水分制限では選択肢となる場合。外出が多い人。
- 細粒・散剤
- 利点:嚥下しやすく用量調整が可能。とろみで安全性向上。
- 欠点:苦味が出やすく湿気に弱い。
- 適応:嚥下障害、小児、用量微調整時。
- シロップ・内服液
- 利点:飲みやすく溶解が不要で吸収が速いこともある。用量調整が容易。
- 欠点:糖類や保存性、計量誤差に注意。
- 適応:小児、嚥下障害、速効が望まれる場面の選択肢。
- チュアブル・トローチ
- チュアブル利点:味が良く噛んで服用できる(全身作用薬)。
- トローチ欠点:多くは局所作用で全身薬の代替にならない場合がある。
- 適応:チュアブルは小児や錠剤が苦手な人。トローチはのどの局所症状用。
- 経口フィルム
- 利点:薄く携帯性が高く水不要。
- 欠点:湿気に弱い。苦味や溶出差がある。
- 適応:外出先や水が取りにくい場面。
- 舌下錠・バッカル錠
- 利点:粘膜吸収で速効が得られる薬に適する。
- 欠点:飲み込むと効果低下。味の違和感。
- 適応:速効性が必要な薬剤(但し医師の指示に基づく)。
- カプセル(速放性・徐放性)
- 利点:苦味遮蔽。ペレットで放出制御が可能。
- 欠点:開封・粉砕禁忌あり。大きさが負担。
- 適応:味対策や徐放設計が必要な場合。
- 一包化(分包)
- 利点:飲み間違い減少、携帯性向上。
- 欠点:湿気・遮光・におい移りに注意。配合可否の確認が必要。
- 適応:多剤併用、介護・在宅療養。
目標(継続しやすさ、安全性、速効性、費用)に合わせて剤型を選び、一般名処方は選択肢を広げる手段の一つです。在庫や承認情報に応じて最終決定を行います。[1–4,9,12]
ケースで学ぶ:よくある悩みと解決の道筋
ケース1「大きい錠剤が飲み込みづらい」:OD錠へ変更して飲み込みづらさが軽減。口の中で崩して少量の水で飲みこむ。
ケース2「OD錠が苦くて無理」:普通錠やカプセルへの剤型変更で苦味が口に広がらないで済みます。
ケース3「数が多くて間違える」:規格見直しで錠数を減らし見た目も派手な色彩のものや他と形が違うものに変えて残薬確認で継続性向上。[12,20]
ケース4「学校や職場で水がない」:経口フィルムやOD錠が選択肢です。液剤があれば変更。
剤型変更のメリット・注意点(誤嚥・安定性・相互作用)規格変更の利点
最大のメリットは飲みやすさの改善で、薬を続けやすくなります。疾患や薬剤により幅がありますが、飲みにくさや味の改善は重要な手段です。[10]
剤型を変える時の注意点は誤嚥リスク、安定性、含有成分による影響、放出制御設計の違い、味の工夫です。順に説明します。[5–9,11–16]
誤嚥リスク:嚥下障害がある場合は錠剤の大きさや表面、服用姿勢が重要です。OD錠は崩壊後の残留でむせることがあるため水で飲み込みます。とろみと組み合わせる等の工夫も手段です。簡易懸濁法は選択肢になりますが、腸溶・一部徐放・口腔粘膜刺激性薬など禁忌があるため、薬剤師が添付文書やマニュアルで可否と手順(例:温湯約55℃での処理条件など)を確認して使用可能なものを調剤します。[5,8]
安定性:液剤は光・温度・pHや容器材質の影響を受けやすく保存に注意が必要です。錠剤は比較的安定ですが、PTPから出したり一包化すると遮光・防湿が弱くなり劣化する場合があるため保存方法と期限を説明します。[9,12,13]
放出制御設計:徐放・腸溶・ペレット設計は砕く・開封することで効果が急変し副作用が出ることがあります。「つぶしてはいけない薬」は必ず確認します。[7,11]
味の工夫:苦味対策としてコーティング、カプセル化、甘味・香料、チュアブル、フィルム等があります。これぞれメーカーごとに味が異なることがあるので液剤の場合は特に味を感じやすく好みのものが見つかれば続けやすくなります。小児では小さい錠剤やチュアブルが受け入れやすいという報告があります。[18,19]
多剤服用の高齢者には一包化や服用タイミングの整理が有効です。ただし粉にできない薬が混在する場合は薬剤師が分包設計を行い、配合変化や吸湿に注意します。[9,12]
規格変更の利点として同一成分で1錠当たり量を変えると錠数を減らせる例(5mg×2→10mg×1)で、飲み間違い減少や継続性向上、コスト調整に寄与します。一般名処方は規格選択の自由度を高めますが、用量・用法が変わる場合は処方医の確認が必要です。[1–3,10,12]
まとめると、剤型・規格変更は「飲みにくい」「味が嫌い」「錠数が多い」を改善する有効な手段ですが、砕けない薬や添加物の注意が必要な薬もあり、必ず医師・薬剤師で情報を確認して選択します。[3,7–9,11–16]
一般名処方変更の実務:医師・薬剤師の連携と患者説明
実務の流れは「評価 → 提案 → 合意 → 指導 → フォロー」です。[2,9,12,20]
1.評価(まず今の困りごとを聞き取ります)
のみ込みやすさ:むせる・つかえる・水が必要か
味の好み:苦い・甘い・においが気になる など
生活リズム:何回までなら飲めるか、仕事や学校との相性
介助の有無:家族や介護者のサポート状況
保管環境・費用感:冷蔵が必要?置き場所は?無理のない価格か
薬の性質を確認:砕いてよいか、液にしてよいか、他の薬や食品との相性
飲み込みが心配なとき:姿勢、トロミの使い方、介助のコツもチェック[5,7–9]
2. 提案(“選べる形”で複数案を出します)
薬剤師の判断で可能な範囲での選択肢を示して、医師へ相談すると変更できるものを説明します。大きく異なる剤形変更や用量変更が伴う場合は疑義照会を行います。[3,4,7–9,12]
3. 合意
疑義照会の場合は医師が処方を決めます。一般名処方では薬局での製品選定幅が広いため薬剤師が最終調整します。
4. 指導(今回調剤したものの飲み方を説明します)
分かりやすく具体的に説明します。例:OD錠は唾液で崩して少量の水で流す/義歯装着/口腔内残留注意。細粒は少量の水でペースト化/熱すぎる湯は避ける。シロップは計量器具で正確に/糖類注意。舌下錠は飲み込まず保持/直後の飲食は避ける。一包化は遮光・防湿の注意。[4,5,8,9,12,14–16]
5. フォロー
次回受診時か、変更後1~2週間で飲みやすさ、むせ、味、腹部症状、効果、残薬を確認し、必要なら再提案します。介護者と情報共有することも有用です。[9,12,20]
飲みづらいものや味が気になるものはこのように解決できるものもあります。毎回、薬剤師と話すときにちょっと相談してみるのもありです。その薬局の在庫状況にもよりますが、必要なら取り寄せて次回から変更という方法もあります。
薬剤師と医師は以下の点に注意して剤型選択や提案をします:[7–9,11,12]
- 粉砕・開封可否を添付文書やインタビューフォーム等で必ず確認する。
- 一包化の可否(配合変化、吸湿、静電気、におい移り)を確認する。
- 液剤は投与具(経口シリンジ等)をセットで指導し家庭での誤差を減らす。
- とろみ使用時は濃度とタイミングを統一し薬ごとの相性に注意する。
- 味付けや食品併用は吸収や相互作用(グレープフルーツ、乳製品等)に注意する。
- 保管条件(遮光・防湿・冷所)を説明しラベル表示を徹底する。
よくある疑問Q&A
まとめ:一般名処方で「続けられる形」を見つけよう
薬は医師の指示通り続けてこそ効果を発揮します。一般名処方は成分を軸にOD錠・カプセル・フィルムなどへの切替を検討しやすくする仕組みです。ただし、すべての成分で全剤形が揃うわけではなく、剤形変更や用量変更が必要な場合は薬剤師だけではなく処方医との連携(疑義照会)して決めます。医師・薬剤師が評価・提案・合意・指導・フォローを丁寧に行えば、「飲みにくい」「味が嫌い」は解決に近づきます。一緒に続けられる形を探しましょう。
引用文献
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