
帰省や旅行のくすりポーチ作り:年末年始の移動先で慌てないための備え(常用薬・OTC・乗り物酔い対策)
年末年始は、帰省や旅行で長時間の移動が増える時期です。寒さや人混み、生活リズムの乱れも重なり、体調を崩しやすくなります。このとき、少しでも準備をしているかどうかで、「その場で落ち着いて対処できるか」「薬局を探して右往左往するか」が大きく変わります。
年末年始の移動で起こりやすい不調と、くすりポーチの基本
年末年始の移動に役立つ「くすりポーチの作り方」のポイントを整理します。
一つ目は、「いつもの薬(常用薬)を最優先で確保すること」
二つ目は、「よく起こる不調に備えた基本のOTC薬を入れておくこと」
三つ目は、「誰のためのポーチかを意識すること」
一つ目は、「いつもの薬(常用薬)を最優先で確保すること」
最優先は、処方薬(いつもの薬)です。
持病のある人だけでなく、ピルやアレルギー薬、片頭痛の頓服薬など「自分にとって欠かせない薬」は、必ず旅の日数分+予備を用意します。いつも飲んでいる薬は、「旅行日数+2〜3日分」を目安に、余裕をもって準備しましょう。天候や交通事情で、予定より帰宅が遅れることもあるためです。
処方薬は、旅先ですぐに同じものが手に入るとは限りません。いつもの薬を飲み忘れたり、旅行日数分を持って行かないと現地で病院を探したり、緊急受診が必要になることもあります。
ここからは、実際にくすりポーチに入れる薬の選び方を、種類ごとに整理していきます。
処方薬については、次の点も意識しておきましょう。薬の名前、飲む量、回数が分かる「お薬手帳」を必ず持参し、できれば最新の状態に更新しておきます。ジェネリック医薬品を含め、薬の正式名称が分かると、旅先でトラブルが起きたときにも説明しやすくなります。また、予備の処方が必要になりそうなときは、早めにかかりつけ医や薬局に相談しておきましょう[4]。
二つ目は、「よく起こる不調に備えた基本のOTC薬を入れておくこと」
一つ目は、頭痛や発熱、のどの痛みなどの「かぜ症状」解熱鎮痛薬を1種類持っておくと、夜間や移動中に熱や頭痛が出ても、ある程度自分で対処できます。二つ目は、「胃腸トラブル」普段から胃腸が弱い人は、消化薬や整腸薬を入れておくと安心です。三つ目は、「乗り物酔い」です。車、バス、新幹線、飛行機、船など、乗り物が変わるたびに酔いやすい人も少なくありません。子どもは大人より酔いやすい傾向があり、きちんと対策しておかないと、旅の初日からぐったりしてしまうことがあります[3]。五つ目は、「ケガや軽い皮膚トラブル」です。人が集まる場所では、ちょっとした転倒によるすり傷や切り傷、靴擦れ、乾燥によるかゆみなども起こりがちです。その場で応急手当てができるものがあれば、大きなトラブルになる前に対応しやすくなります。
次に、あると便利なOTC薬(市販薬)の基本セットです。ここが、くすりポーチ作りの中心になります。体調や年齢によって変わりますが、目安として、次のような薬を検討します。
- 乗り物酔い止め:後述する年齢別・シーン別のポイントを踏まえ、自分に合うものを準備。
- 胃腸薬:胃もたれや胸やけが出やすい人は制酸薬や消化薬、ストレスで胃がキリキリしやすい人は漢方薬など、自分のタイプに合わせて選ぶ。
- 整腸薬・下痢止め:軽い下痢や腸内環境の乱れに備える(発熱や血便を伴う下痢では、自己判断での止痢薬使用は避ける)。
- 解熱鎮痛薬:頭痛、発熱、生理痛、筋肉痛などへの備えに。アセトアミノフェン、イブプロフェンなど、自分に合ったものを1種類。
- 外用薬・救急用品:消毒薬、絆創膏、患部保護用テープ、虫さされ・かゆみ止め、保湿剤など。
この中で特に注意したいのが、解熱鎮痛薬とかぜ薬です。解熱鎮痛薬は、成分によって特徴が異なります。アセトアミノフェンは胃への負担が比較的少なく、妊娠中・授乳中でも条件付きで使われることが多い薬ですが、飲みすぎると肝臓に負担がかかることがあります[5]。
アセトアミノフェンは用法用量を守れば安全性が高い薬ですが、1日に飲んでよい量と回数、続けてよい日数を必ず守りましょう[5]。一方、イブプロフェンやロキソプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:炎症や痛みを抑えるタイプの解熱鎮痛薬)は、痛み止めとしてしっかり効きますが、胃潰瘍や腎機能への影響、心血管リスクなどが知られています[6]。
自分に合う解熱鎮痛薬を選ぶときは、次のポイントを意識します。胃が弱い人や、高齢者、腎臓や心臓の病気がある人は、自己判断でNSAIDsを連続して使用せず、かかりつけ医や薬剤師に相談すること。すでに医師から鎮痛薬が処方されている場合は、その薬と成分が重ならないよう注意すること。どの解熱鎮痛薬でも、自己判断で続けてよい期間は目安として数日程度にとどめ、3日ほど使っても熱や痛みがよくならないときや、かえって悪化する場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
かぜ薬についても、総合感冒薬には、多くの成分が組み合わされています。複数の風邪薬のOTC薬を同時に使うと、同じ成分を二重に飲んでしまうおそれがあるため、「今の症状に必要な成分はどれか」「すでに飲んでいる薬と重なっていないか」を確認することが大切です[1]。
胃腸薬や整腸薬は、自分の「なりやすいパターン」を知っておくと選びやすくなります。脂っこいものを食べると胸やけがしやすい人には、胃酸を中和する制酸薬や、胃酸分泌を抑える薬が合うことが多いです。食べ過ぎると胃もたれしやすい人には、消化酵素薬や、胃の動きを助けるタイプの薬が向いています。
下痢止めは、発熱を伴う強い下痢や、血の混じった下痢、海外での旅行者下痢症などでは、自己判断で止めてしまうと、かえって悪化することがあります。特に海外では、早めに医療機関を受診することが重要です[7]。
最後に、外用薬や救急用品です。ちょっとした切り傷やすり傷には、水でよく洗ってから使える消毒薬や、滅菌ガーゼ、絆創膏が役立ちます。乾燥する季節なので、ひび割れやあかぎれ用の保湿クリームや軟膏も入れておくと安心です。虫さされやじんましんが出やすい人は、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン外用薬も検討しましょう。ただし、顔面や広い範囲へのステロイド使用には注意が必要なため、心配なときは事前に医師や薬剤師に相談しておくとよいでしょう[9]。
三つ目は、「誰のためのポーチかを意識すること」
自分用なのか、家族全員で使うのか、小さな子どもや高齢の家族がいるのかによって、入れる薬は変わります。例えば、解熱鎮痛薬は、大人用と子ども用では成分も用量も異なります。家族構成と行き先(国内か海外か、車移動か飛行機か)を考えながら、中身を調整していきましょう。また、ふだん健康食品やサプリメントを飲んでいる家族がいれば、その名前や飲み方も一緒にメモしておくと、旅先で相談するときに役立ちます[2]。
アレルギー薬については、小児への使用に注意が必要です。眠気の強い抗ヒスタミン薬は、子どもの行動や学習に影響を与える可能性があります。子ども用のかぜ薬やアレルギー薬は、必ず年齢・体重に合った製剤を選び、添付文書に記載された用法用量を守ることが重要です。大人用を飲ませず子供用の商品を使いましょう。
また、くすりポーチは「すぐ取り出せる場所」に入れておくことも重要です。スーツケースの奥底にしまってしまうと、移動中には使えません。リュックの外ポケットや、すぐ開けられる手荷物に入れておくと安心です。
飲み合わせ・保管・持ち運びのコツとチェックリスト
最後に、くすりポーチを安全に使いこなすための「飲み合わせ」「保管・持ち運び」「出発前チェック」について整理しておきます。この部分を押さえておくと、「薬は持っていたのに、使い方を間違えてしまった」という事態を防ぎやすくなります。
まず「飲み合わせ」です。OTC薬はドラッグストアで気軽に買えますが、「気軽に買える=必ず安全」というわけではありません。処方薬との成分の重複、複数のOTC薬同士の重複、アルコールやサプリメントとの相互作用など、注意すべきポイントがいくつもあります[1]。
代表的な注意点として、解熱鎮痛薬の二重使用が挙げられます。総合かぜ薬に解熱鎮痛成分(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)が含まれているのに、さらに別の解熱鎮痛薬を飲んでしまうと、成分が重なり、胃腸障害や肝機能障害などのリスクが高まります[5]。添付文書で有効成分を確認し、「同じ成分が入った薬を二つ以上同時に飲まない」ことを徹底しましょう。
また、眠気の出る成分を含む薬とアルコールの併用にも注意が必要です。抗ヒスタミン薬、抗不安薬、睡眠薬、酔い止めの一部などは、単独でも眠気を起こしますが、アルコールと一緒に飲むと、その作用が強まり、転倒や事故、判断力低下などにつながります[3]。年末年始はお酒の機会が増える時期なので、「お酒を飲む日は、眠気の出る薬はできるだけ避けるか、時間をずらす」「どうしても必要な場合は、アルコール量を控える」などの工夫が必要です。
次に、「保管と持ち運び」のコツです。薬は、温度・湿度・光の影響を受けやすいものが多く、極端な環境では品質が落ちるおそれがあります。一般的なOTC薬や多くの処方薬は、箱や添付文書に記載されたとおり、「室温で、直射日光と高温多湿を避ける」といった条件での保管が推奨されています。室温の範囲は製品によって「1〜30℃」「1〜25℃」などと異なるため、必ず各薬の表示を確認しましょう。ラベルに書かれた保存方法を守ることが大切です。
くすりポーチは、直射日光の当たらない、手荷物の中ほどの位置に入れておきます。冷蔵保存が必要な薬(インスリンなど)がある場合は、保冷バッグや保冷剤を使って温度管理を行い、凍らせないようにも注意します[4]。飛行機で移動するときは、スーツケースに入れて預けると貨物室で凍結する可能性があるため、必ず機内持ち込み手荷物に入れておきましょう。
錠剤やカプセルをシートからバラして持ち運ぶと、成分や用量が分からなくなったり、破損して品質に影響が出る可能性があります。可能な限り、PTPシート(銀色のシート)ごと持ち運び、外箱や説明書の一部を切り取って一緒に入れておくと、成分名や用法用量を確認しやすくなります。一包化されている薬は、そのまま袋ごと持ち運びましょう。
海外旅行の場合は、国によって持ち込みが制限されている薬もあります。日本では一般的な成分でも、現地では規制対象になっていることがあります。長期滞在や特殊な薬を持ち込む場合は、事前に大使館や公的機関の情報を確認しておくと安心です[7]。英文の診断書や処方内容の説明書の持参を求められる国もあります。調剤してくれた薬局に相談してみてください。
最後に、出発前に確認したい「くすりポーチのチェックリスト」をまとめておきます。印刷したり、メモに写したりして、自分用にアレンジしてみてください。
- 【常用薬】旅行日数+2〜3日分を用意したか。お薬手帳、保険証(またはコピー)、医療証、アレルギー情報を持ったか。
- 【乗り物酔い】年齢に合った酔い止めを準備したか。服用タイミングと回数を確認したか。車・船・飛行機での座席選びもイメージできているか。
- 【胃腸薬】食べ過ぎ・飲み過ぎ対策の胃薬、自分の体質に合った整腸薬や便秘薬、下痢止めを用意したか。
- 【解熱鎮痛薬】自分や家族に合った1種類を選んだか。すでに処方薬がある場合、成分が重複していないか確認したか。
- 【かぜ関連】必要に応じて総合かぜ薬、のどスプレー、トローチなどを用意したか。子ども用と大人用を混同しないよう分けたか。
- 【アレルギー】普段使用している抗ヒスタミン薬、必要に応じて自己注射薬を忘れていないか。
- 【外用・救急】消毒薬、絆創膏、ガーゼ、テープ、虫さされ薬、保湿剤などを入れたか。
- 【飲み合わせ】飲酒の予定を踏まえ、眠気の出る薬の使い方を確認したか。サプリとの併用について不明点があれば、事前に薬剤師に相談したか。
- 【保管・持ち運び】薬を車内や窓際など高温になる場所に置かないようにしたか。冷蔵薬がある場合、保冷対策と機内持ち込みの段取りを確認したか。
- 【家族で共有】誰がどの薬を使ってよいか、家族内で共有したか。特に子どもや高齢者の薬は、ラベルやメモで分かりやすくしておいたか。
くすりポーチ作りの目的は、自分と家族に「起こりがちなトラブルに、自分たちである程度対応できるようにしておく」ことが大切です。
年末年始の慌ただしさの中で、くすりポーチの準備はつい後回しになりがちです。出発の数日前に、一度じっくり中身を見直しておくと、移動先での安心感がぐっと高まります。
そのうえで、重い症状が出たときや、いつもと違う様子があるときには、無理をせず早めに医療機関を受診しましょう。
- Kyoto Pharmaceutical Association. 注意したい薬の飲み合わせ、食べ合わせ[Internet]. Kyoto: Kyoto Pharmaceutical Association; c2015 [cited 2025 Dec 16]. Available from: https://www.kyotofuyaku.or.jp/general/safety/
- 厚生労働省. 健康食品の正しい利用法. Available from: https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/kenkou_shokuhin00.pdf
- Centers for Disease Control and Prevention. Motion Sickness, Nausea, and Vomiting. CDC Yellow Book. Available from: https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travel-air-sea/motion-sickness.html
- 厚生労働省. 海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについてAvailable from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/index_00005.html
- National Institutes of Health. Acetaminophen – LiverTox: Clinical and Research Information on Drug-Induced Liver Injury. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK548162/[Reference status: missing]
- Lanas A, Chan FKL. Peptic ulcer disease. Lancet. 2017;390(10094):613-624. doi:10.1016/S0140-6736(16)32404-7. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177221_00003.html (Accessed: 2025-12-10)
- Centers for Disease Control and Prevention. Travelers’ Diarrhea. CDC Yellow Book. Available from: https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/preparing-international-travelers/travelers-diarrhea.html. Available from: https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/preparing-international-travelers/travelers-diarrhea.html (Accessed: 2025-12-10)
- U.S. Food and Drug Administration. OTC Cough and Cold Products: Not For Infants and Children Under 2 Years of Age. Available from: https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/otc-cough-and-cold-products-not-infants-and-children-under-2-years-age. Available from: https://www.pmda.go.jp/files/000153525.pdf (Accessed: 2025-12-10)
- Japan Dermatological Association. Dermatology Q&A: Atopic dermatitis Q9 “How should topical steroids be applied?”. Available from: https://qa.dermatol.or.jp/qa1/q09.html. Accessed 2025 Dec 16.







