
催眠鎮静薬OTCセレクト
安眠をサポートする市販の催眠鎮静薬:効果と注意点
市販の催眠鎮静薬の効果や安全性、使用時の注意点を薬剤師がわかりやすく解説。不眠の対策や受診の目安についてもお伝えします。
一時的不眠に対する市販催眠鎮静薬の役割
一時的な不眠は、ストレスや生活リズムの乱れ、時差ボケなど、どなたにも起こりうる身近なトラブルです。市販の催眠鎮静薬(OTC睡眠薬)は、こうした一時的な不眠の症状をやわらげるための「補助的な選択肢」として使われています。
原因のわかっているストレス、引っ越しや旅行などの環境の変化、不規則な生活による一時的な不眠に対して夜に休むための補助としてOTCは使用しましょう。市販の催眠鎮静薬を慢性的に使うのはお勧めしません。
なぜならOTCはごく一時的な応急処置でしかありません。医療用で使うお薬の成分とは全くの別物だからです。3か月以上続く慢性的な不眠や、日中の活動に支障が出るような眠気や集中力の低下がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
不眠の治療の基本は、生活習慣の見直しや睡眠環境の工夫、市販の催眠鎮静薬はあくまで短期間のサポート役。長く使い続けることや、習慣的な服用はおすすめできません。
質のよい睡眠を得るための生活上の工夫、たとえば「毎朝同じ時間に起きる」「寝る前に強い光(スマホやパソコン、テレビなど)を避ける」「カフェインやアルコールは控える」などが挙げられます。まずはこうした基本的な対策を行い、それでも眠れない場合に限って市販薬の使用を検討しましょう。
一時的不眠とはどんな状態?
一時的不眠とは、急なストレスや環境の変化、旅行による時差、普段と異なる生活リズムなどがきっかけとなって起こる、比較的短期間の睡眠のトラブルを指します。多くの場合、原因が解消されれば自然と改善しますが、入眠困難や夜中に目が覚めてつらいときには市販薬の利用を検討することもあります。もし不眠が長引いたり、日中の眠気が強い場合は、市販薬を続けずに早めに専門医にご相談ください。
慢性不眠との違いと市販薬の位置づけ
慢性不眠とは、「週3回以上・3か月以上続く不眠」や「日中の活動に支障が出る状態」を指します。この場合、原因に応じた根本的な治療が必要になるため、市販薬による対処は適切ではありません。精神科を受診しましょう。市販の催眠鎮静薬は、あくまで「一時的な症状緩和=応急処置」として、短期間だけ活用するものです。
睡眠衛生のポイントと市販薬の併用
睡眠衛生とは、良い睡眠のための生活習慣や工夫のことを指します。たとえば「毎朝同じ時間に起きる」「寝る前に強い光を浴びない」「眠くなってからベッドに入る」「カフェインやお酒を控える」「スマートフォンやパソコンの画面を見ないようにする」などが大切です。まずはこうした工夫を続けてみて、それでも眠れない場合のみ市販薬の使用を検討しましょう。
市販催眠鎮静薬の主な成分とその効果・エビデンス
市販の催眠鎮静薬には主に以下の成分が使われています。それぞれの成分は、入眠困難や夜中の目覚め、自律神経の乱れなど、特定の不眠症状に対して一定の効果が期待されています。ただし、科学的根拠(エビデンス)から見ても効果は控えめであり、個人差も大きいことがわかっています。最近の大規模な研究やガイドライン(AASM不眠症ガイドライン2021、日本睡眠学会Q&A2024等)でも、ジフェンヒドラミンは催眠鎮静薬として用いることは推奨されないとされています。
ジフェンヒドラミン:軽度の入眠困難に使われる成分
ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬(アレルギー症状を和らげる成分)の一種で、日本ではOTCの睡眠改善薬に使われています。本来はアレルギー症状に対して使用しますが、ジフェンヒドラミンは副作用として眠気が出やすく、逆手を取ってこれを入眠困難に利用しています。アレルギー治療の時よりやや多めの1回50mを使用します。
1回50mgの服用で寝つきを6~12分ほど早める効果が、2022年のCochraneレビューなどでも確認されていますが、総睡眠時間が大きく延びるわけではありません。
数日続けて使うと効果が薄れやすい(耐性がつきやすい)特徴があります。また、急に中止するとリバウンド不眠(薬をやめた後に一時的に不眠が悪化する現象)が生じることもあります。依存性はありませんが、長期連用は推奨されません。エビデンスとしても限定的で、一時的な使用、一週間までにとどめましょう。
稀にこの成分は効きすぎて昼頃まで眠気が残ったりぼんやりしてしまう人がいます。使う場合は翌日が休みの日など、寝過ごしても良い日で一度試してきちんと起床できるかまず試してみてください。それからいざというときに使用するのがベターでしょう。
漢方薬:桂枝加竜骨牡蛎湯による自律神経不安の緩和
漢方薬の「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」は、心身の緊張や自律神経の乱れによる不眠に使われます。体質に合う方には一定のサポートとなる場合がありますが、効果には個人差が大きいのが特徴です。また、漢方薬にも副作用(肝障害、間質性肺炎など)や他のお薬との相互作用があるため、自己判断での長期服用は避け、医師や薬剤師にご相談ください。
安全に使うための注意点と受診の目安
市販の催眠鎮静薬はドラッグストアや薬局で手軽に購入できますが、正しく使わないと副作用や健康被害のリスクがあります。特に高齢者や持病のある方、他のお薬を飲んでいる方は注意が必要です。ここでは、安全に使うためのポイントや、医療機関を受診すべきタイミングについて解説します。
抗ヒスタミン系成分の副作用とリスク
ジフェンヒドラミンは、睡眠を促す一方で、翌朝まで眠気が残る、口の渇き、便秘、尿が出にくい、目がかすむなどの副作用が出やすい成分です。
特に高齢者は、転倒やせん妄(意識が混乱し、判断力が低下する状態)のリスクが高まるため、米国老年医学会が2023年に改訂した「Beers基準」(高齢者に不適切な薬物リストをまとめたガイドライン)でも高齢者への抗ヒスタミン薬の使用は非推奨とされています。
また、緑内障や前立腺肥大、心疾患、睡眠時無呼吸症候群のある方、小児(15歳未満)、妊娠後期や授乳中の方、てんかんの既往がある方は、これらの薬の使用を避けてください。
ブロモバレリル尿素製剤のリスク
ブロモバレリル尿素製剤は、古くから市販されていましたが依存や離脱時のけいれん発作など重篤な副作用が報告されてきました。過量に飲みすぎた場合の安全性は低く、2014年厚生労働省により「濫用等のおそれのある医薬品」としてブロモバレリル尿素が指定されました。
OTCは大量購入されないように販売が強化されましたが、いまだOTCでは販売が続いています。依存性がありますのでOTCとして使用する場合はごく短期間に使用にとどめてください。
医療用医薬品のブロモバレリル尿素は販売中止、2025年4月から処方されなくなりました。もし古い薬が手元にある場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
他の薬やアルコールとの併用に注意
市販の催眠鎮静薬には、風邪薬やアレルギー薬と同じ成分(ジフェンヒドラミンなど)が含まれている場合があります。
複数のお薬を同時に服用すると、成分が重複して副作用が強く出る危険があります。
また、アルコールや医師から処方されている睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)と一緒に飲むと、眠気やふらつきが強くなり、転倒や事故のリスクが高まります。特に高齢者や基礎疾患のある方は注意が必要です。
他の薬と重複していないかを必ず確認し、アルコールとの併用は避けてください。
正しい服用方法と安全な使い方
市販催眠鎮静薬は、製品ごとの用法・用量や使用期間を必ず確認し、長期連用は避けてください。なるべく一週間ほどで使用は中止をおすすめします。就寝30分前に決められた量だけ服用し、効果がない場合は自己判断で増量せずに中止し、医療機関にご相談ください。
翌日に重要な仕事や運転、機械操作がある日は服用を控えてください。
保管と誤用防止のポイント
お薬は湿度60%以下、温度15~25℃の暗い場所(外箱ごと)で保管し、使用期限は外箱等に記載されている「使用期限」を必ず守りましょう。
小さなお子様や認知症のご家族の手の届かない鍵付きの戸棚で保管し、PTPシート(錠剤のシート)から出した錠剤を放置しないことも大切です。PTPシートから出すと、誤飲・誤用や品質劣化のリスクが高まりますのでご注意ください。
使用中や服用後に現れる異常と受診の目安
市販薬を使っても改善無く不眠が1~2週間以上続く場合や、週3回以上日中の眠気や集中力の低下がみられる場合は、早めに医療機関を受診してください。
「寝つくまで30分以上かかる」「夜中に2回以上目が覚める」といった症状が続く場合も医師の診察が必要です。
また、いびきがひどく無呼吸を指摘された場合、むずむず脚症候群(脚がムズムズして眠れない)、うつ症状や強い不安がある場合も速やかにご相談ください。
よくある質問と不眠改善の総合的なアドバイス
市販の催眠鎮静薬は手軽に購入できますが、使い方や効果について疑問を持つ方も多いと思います。ここでは、よくある質問への回答と、薬に頼りすぎない不眠対策についてまとめます。
市販催眠鎮静薬は誰でも使えるの?
市販の催眠鎮静薬は、健康な成人であれば一時的な不眠の際に利用できますが、15歳未満の小児や高齢者、基礎疾患のある方(前立腺肥大、緑内障、心疾患、てんかん、睡眠時無呼吸症候群など)、妊娠後期や授乳中の方は使用を避けてください。
ご自身の健康状態に不安がある場合は、購入前に薬剤師や医師にご相談ください。
市販薬を使っても眠れない場合はどうしたら良い?
市販薬で改善しない場合や、1~2週間以上症状が続く場合、日中の眠気や集中力の低下が週3回以上ある場合は、自己判断で服用を続けず、早めに医療機関を受診してください。
薬の効き目が弱いからといって自己判断で量を増やすことはしないようにしましょう。
薬に頼らない不眠対策も重要
不眠症状の根本的な改善には、薬だけに頼らず、生活習慣の見直し、ストレス対策、適度な運動、睡眠環境の整備が大切です。
毎日同じ時間に起きる、寝る前にリラックスする時間を持つ、寝室の照明や温度を快適にする、といった工夫が睡眠の質の向上につながります。必要に応じて、専門的な「認知行動療法(CBT-I)」を受けることも効果的です。
まとめ:市販催眠鎮静薬の賢い使い方
市販の催眠鎮静薬は、一時的な不眠に対して一定のサポートとなりますが、根本的な解決策ではありません。安全に使うためには、用法・用量を守り、長期連用や自己判断での増量を避けることが大切です。副作用や他の薬との相互作用、基礎疾患との兼ね合いにも十分注意し、少しでも不安があれば薬剤師や医師にご相談ください。
不眠の改善には、日々の生活習慣の見直しが欠かせません。「寝付けないから」とすぐに薬に頼るのではなく、まずは睡眠衛生の工夫やストレスケアを行いましょう。それでも改善しない場合や、症状が長引く場合は、早めに専門医に相談することが安心・安全な睡眠への第一歩です。自分で抱え込みすぎず、OTCが効かないなら専門医へ受診する選択肢を持ちましょう。
【脚注・用語補足】
- PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票):睡眠の質を多面的に評価する国際的な指標。
- せん妄:意識が混乱し、判断力が低下する状態。
- リバウンド不眠:薬の中止後に一時的に不眠が悪化する現象。