
年末に乱れた睡眠リズムを元に戻す
年末は、忘年会、残業、大掃除、帰省の準備などで、寝る時刻と起きる時刻が少しずつ遅れやすい時期です。ここで崩れたリズムを放っておくと、寝つきが悪い、朝がつらい、日中の眠気が抜けない、食事の時間が乱れる、といった状態が続きます。年始に仕事や学校が始まる頃には、体も頭も「まだ夜のつもり」になってしまい、切り替えが大変になります。
立て直しの基本はシンプルです。「夜をがんばって早く寝る」より先に、「朝を固定する」ことから始めます。体内時計は、特に朝の光で動きやすいです。そこに朝食と日中の活動を重ねると、眠気の波が作りやすくなります。夜は、その波をじゃましないように、飲酒・カフェイン・スマホの使い方を整えます。個人差はありますが、ズレが軽い場合は、数日〜1週間ほどで変化を感じる人もいます。
まずは起床時刻を固定する:週末も「±1時間」
睡眠リズムを戻すとき、最初に決めるのは就寝時刻ではなく起床時刻です。起床が毎日ぶれると、体内時計の「朝」も日ごとに変わります。すると夜の眠気もずれ続け、結果として寝つきが不安定になります。逆にいえば、起床を固定すると、数日かけて夜の眠気が整っていきます。
目安は「いつもの起床時刻から±1時間以内」です。平日と休日の差が大きいと、時差ぼけのような状態(社会的時差:生活の予定のせいで体内時計がずれること)になりやすいと報告されています。週末に寝だめして回復しようとすると、月曜の朝に強い眠気が出たり、夜に眠れなかったりしやすくなります。年末年始こそ、週末の起床を大きくずらさないことが近道です。[1]
もしすでに起床が遅くなっているなら、いきなり2~3時間前倒しするのはおすすめしません。体は急な変更が苦手です。まずは毎日15~30分ずつ早めて、3~7日で戻すイメージが現実的です。大切なのは「できる範囲で毎日同じにする」こと。完璧を目指して崩れるより、8割の達成を続ける方がうまくいきます。
起床を固定するコツは、「起床=行動開始」をセットにすることです。目覚ましで起きるだけだと、布団の中でスマホを見てしまい、気づけば30分たっていることがあります。起きたらまずカーテンを開ける、洗面所に行く、白湯を飲む、など短い動作でよいので固定します。朝の最初の5分を決めるだけで、起床時刻のズレが減ります。
ただし、睡眠時間が慢性的に足りていない人は、起床を固定するだけではつらく感じることがあります。その場合は「就寝を少しだけ早める」「夜更かしの原因を1つだけ減らす」を並行して行います。体内時計の調整と睡眠不足の解消は別の問題なので、両方を少しずつ進めるのが安全です。
朝の光と朝食で体内時計をリセットする
体内時計を動かす大きなスイッチは「光」です。特に朝の明るい光は、体内時計を前に進めて(早寝早起きの方向へ)調整しやすいことが、ヒトでの研究でも示されています。[2] 起床時刻を固定したら、次に「起きたら光」を意識します。曇りの日でも屋外は室内より明るいので、可能なら外に出て数分歩くのが理想です。難しければ、窓際で過ごすだけでも構いません。
朝の光が入ると、夜間に増えるメラトニン(体内時計の「夜」を知らせ、入眠を後押しするホルモン)は出にくくなり、体が日中モードに切り替わりやすくなります。
次に大切なのが朝食です。 ここで意識したいのは量よりタイミングです。胃が重いなら、まずは一口でも構いません。例えば、牛乳やヨーグルト、バナナ、みそ汁など、のどを通りやすいもので十分です。食事のタイミングは、肝臓や筋肉などの「末梢の時計」(体内時計のうち、各臓器にもあるリズム)にも影響します。ただし研究は対象や条件が限られることがあり、効果には個人差があります。[3]
朝食が整うと、日中の活動量も上げやすくなります。人はお昼に向けて体温が上がると集中しやすくなり、夕方にかけて体が動きやすくなります。日中にしっかり体を動かすと、夜の眠気が自然に強まりやすいです。運動が難しい日でも、外出や階段、家事のような軽い活動で構いません。ポイントは「昼に起きる理由」を体に覚えさせることです。
逆に、朝が暗い場所でずっと室内、朝食抜き、日中も座りっぱなし、という生活だと、体内時計が「昼」をつかみにくくなります。年末はやることが多いので夜に作業を回しがちですが、リズムを戻したい数日間だけは、朝の光と朝食を優先してください。
夜の習慣を整える:飲酒・カフェイン・スマホの見直し
朝を固定しても、夜の習慣が強くじゃまをすると寝つきは改善しにくいです。年末に増えやすいのは、飲酒、カフェイン、そして夜のスマホです。どれも「眠りに入りにくい方向」に働きます。ここは我慢大会ではなく、ルール作りで整えます。
まず飲酒です。お酒は一時的に眠気を感じることがありますが、睡眠の質を下げやすいことが知られています。途中で目が覚める、浅い眠りが増える、いびきが増える、などが起こりやすくなります。睡眠時無呼吸が疑われる人では、特に影響が出やすいことがあります。[4] 忘年会がある日は、完全にゼロにできなくても、「量を控える」「寝る直前まで飲まない」を優先してください。寝酒は、寝つきが良くなった気がしても、後半の睡眠を崩しやすいので注意が必要です。
次にカフェインです。コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクだけでなく、チョコレートや一部の風邪薬にも入っています。カフェインは就寝6時間前でも睡眠を悪化させうることが研究で示されています。[5] さらに、体の中での抜け方(半減期)はだいたい3~7時間とされ、体質・喫煙・薬などで個人差も大きいです。夕方以降の不眠が目立つ人は、「就寝8時間前以降は避ける」など、もう少し早めに区切るのも方法です。年末の残業で夕方以降に飲む量が増えた人は、まず「カフェインは昼まで」を目標にしてください。
そしてスマホやタブレットです。画面の光、とくに短波長(青色)成分は、夜間のメラトニン分泌を抑え、体内時計を遅らせやすいことが示されています。電子書籍端末での夜間読書が睡眠や体内時計に影響した研究もあります。[6] ここで大事なのは「スマホを見ない」という根性論より、「見てもいいが条件を決める」という設計です。たとえば、寝床に持ち込まない、ベッドでは通知を切る、充電場所を部屋の反対側にする、などです。
夜の習慣は、次の3つを整えると失敗が減ります。
- 時間のルール:就寝90分前から照明を少し暗くし、作業の締め切りを作る(「ここで終わり」を決める)。[6]
- 飲み物のルール:カフェインは昼まで(合わない人はさらに前倒し)、飲酒は量と時間を決め、寝酒にしない。[4]
- 行動のルール:寝床は「寝る場所」にする。眠れないまま長く横にならず、いったん起きて落ち着いた行動に切り替える(不眠の認知行動療法の考え方)。[7]
いわゆる「入眠儀式」は、難しいものは不要です。毎晩同じ流れを短く行うほど続けやすいです。たとえば、入浴→歯みがき→照明を落とす→ストレッチ1分→布団、のように、5~15分で終わる形が合います。狙いは、「脳に今から寝る合図を出す」ことです。
また、眠れない夜に時計を見る癖は、不安を増やしやすいのでおすすめしません。時計を見て焦るほど交感神経が高まり、ますます寝つきにくくなります。アラーム設定はしても、時間表示は見えない位置に置くとよいです。不眠の対策は、気合よりも環境と行動で作る方が成功しやすいです。[7]
それでも眠れないときの対処:昼寝・運動・受診の目安
ここまで調整しても、数日はうまく眠れないことがあります。年末はストレスや疲れも重なるため、体が過覚醒(緊張が抜けにくい状態)になりやすいからです。そんなときは「眠れない夜」だけを何とかしようとせず、次の日の過ごし方で立て直します。
まず昼寝です。昼寝は、使い方しだいで味方になります。短い昼寝は眠気の改善に役立ちますが、長すぎる昼寝や遅い時間の昼寝は夜の睡眠を邪魔します。短い仮眠(いわゆるパワーナップ)に関するレビューでも、短時間の昼寝が有用になり得ることが述べられています。[8] 目安は午後の早い時間に10~20分程度です。30分を超えると寝起きが重くなりやすく、夜も遅れやすいので注意します。
次に運動です。運動は不眠の改善に役立つ可能性があり、メタ解析でも睡眠の質の改善が報告されています。[9] ただし夜遅い激しい運動は、体温や興奮が下がりにくい人もいます。年末の立て直し期は、夕方までのウォーキングや軽い筋トレなど、続けやすい強度を選ぶ方が安全です。運動を「やるか・やらないか」で悩むより、「短くてもやる」を積み上げる方が効率的です。
それでも寝つけないときは、布団の中で粘りすぎないのがコツです。目安として20分前後たっても眠れない感覚があるなら、いったん布団を出て、暗めの場所で静かな行動に切り替えます。紙の本を少し読む、呼吸を整える、音量を落とした音楽を聞く、などです。そして眠気が戻ってから布団に戻ります。これは不眠の認知行動療法(CBT-I)で用いられる「刺激統制」の考え方です。慢性不眠で特に有効性が示されており、年末年始の一時的なリズム崩れでも「布団=眠る場所」という学習を守る目的で役立つことがあります。ただし万能ではないので、つらさが強い場合は無理をしないでください。[7]
最後に、受診の目安です。年末年始は「様子見」で先延ばしになりやすいので、危険サインだけは知っておいてください。次に当てはまる場合は、早めに医療機関に相談してください。睡眠の病気や、気分の不調など別の問題が隠れていることがあります。
- 不眠(寝つけない、途中で起きる、早く起きる)が週3回以上あり、それが3か月以上続いている。[7]
- 強いいびき、呼吸が止まると言われる、起床時の頭痛や強い眠気が続く(睡眠時無呼吸の可能性)。[10] [11]
- 日中の眠気が強く、運転や仕事に支障が出る。気分の落ち込み、意欲低下が長く続く。[7]
- 新しく始めた薬や増量のあとから眠れない(例:ステロイド、抗うつ薬の一部、気管支拡張薬の一部、眠気止め成分やカフェインを含むかぜ薬など)。
- 休日は自然にかなり遅い時刻に眠くなり、どうしても朝に起きられない(睡眠相後退など、体内時計の病気の可能性)。
- 足のむずむずで寝つけない、動かすと楽になる(むずむず脚症候群の可能性)。
市販の睡眠改善薬を使う前に、まず生活の土台(起床固定、朝の光、夜の刺激を減らす)をやりきってください。それでも改善が弱い場合は、自己判断で薬を増やすのではなく、医師や薬剤師に相談する方が安全です。なお、市販の睡眠改善薬には、ジフェンヒドラミンなど抗ヒスタミン成分が使われることがあります。翌日の眠気、口の渇き、便秘、尿が出にくい、ふらつきなどが問題になることがあります。高齢者、緑内障、前立腺肥大のある人、飲酒を伴う人は特に注意してください。年末年始の数日のズレなら、多くは「朝を固定」して「夜の邪魔を減らす」ことが助けになります。今日からは、起床時刻を先に決めて、朝の光を取りにいきましょう。
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