
睡眠薬の種類と選び方:ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系・メラトニン受容体作動薬の違い
「眠れない」は一言で言えても、内容は人によって違います。寝つけないのか、夜中に目が覚めるのか、朝早く起きてしまうのか。さらに年齢、生活リズム、持病、併用薬によって、安全に選べる薬も変わります。睡眠薬は「強い薬を出せば終わり」ではなく、「不眠の型」と「その人のリスク」をセットで考えるのが基本です。慢性不眠では、まず行動療法(CBT-Iなど)を軸にして、薬は必要なときに安全面を見ながら使う、という整理がされています。[10]
この記事では、よく話題になる3つの系統(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬)を、高校生にもわかるように整理します。なお、睡眠薬は「合う・合わない」が出やすい薬です。ここでの内容は一般的な考え方であり、実際の処方変更は必ず主治医・薬剤師に相談してください。特に高齢者では、睡眠薬による転倒などの有害事象が起きやすいので、慎重な選択が必要です。[12]
不眠のタイプ(入眠障害・中途覚醒など)から考える選び方
まずは、「どんな眠れなさか」を言葉にして、入眠(寝つき)なのか、睡眠維持(夜中に起きる)なのかをはっきりさせましょう。不眠は大きく、入眠障害(寝つけない)、中途覚醒(夜中に何度も起きる)、早朝覚醒(朝早く目が覚める)、熟眠障害(眠った感じがしない)に分けて考えます。ここを外すと、薬の選び方もズレてしまいます。たとえば入眠障害なのに作用が長い薬を選ぶと、翌日の眠気(持ち越し)が出やすくなります。逆に中途覚醒が中心なのに短時間型の薬だけだと、寝つきは良くても夜中に効果が切れて起きやすい、ということが起こります。睡眠薬の使い方をまとめたガイドラインでも、睡眠維持(中途覚醒)か入眠困難かで推奨される薬が変わる、という考え方が示されています[5]。
ただし、薬の前に確認してほしいことがあります。眠れない原因が「睡眠の病気」ではなく、生活・環境・ストレス・体調に由来している場合も多いからです。たとえば、就寝前のスマホ、夕方以降のカフェイン、寝だめ、長い昼寝、夜遅い食事、夜更かしと朝寝坊の繰り返しは、体内時計と眠気のリズムを乱しやすいです。睡眠衛生(眠りやすい習慣づくり)だけで不眠が十分に改善する人は多くない、という報告もありますが[15]、それでも「土台」として整える価値は大きいです。土台が乱れたまま薬だけ増やすと、必要量が増えやすく、やめにくくなります。
行動療法(CBT-I)は、不眠治療として効果の根拠が強い方法です。睡眠を邪魔する考え方や行動を少しずつ変えていくもので、専門家の面接だけでなく、ネットやアプリ型でも一定の効果が示されています[10][14][19][17]。中でも「睡眠制限療法(寝床にいる時間を一度しぼって、眠りを固めていく)」は研究の蓄積があり、効果が確認されています[4]。薬が必要な場合でも、こうした方法を並行して進めると、薬を減らしやすくなります。
もう一つ、体内時計のズレが目立つ人には、光の使い方がとても重要です。朝の光をしっかり浴びる、夜の強い光を避ける、という基本に加え、光療法(条件を整えた光を使う方法)も検討されます。ただし光療法は有望とされる一方で、研究結果は一貫しない点もあり、効き方には個人差が大きい可能性があります。[6]また運動も、強すぎない範囲で継続すると不眠に役立つ可能性が示されています[18]。ここまでの生活面の改善は、「薬を飲む・飲まない」よりも長く効く武器になります。
不眠の型をつかむために、まずは次の2点だけを1週間メモしてみてください。
- 寝床に入った時刻、眠れたと思うまでの時間、夜中に起きた回数と合計時間
- 起床時刻、昼寝の有無、夕方以降のカフェインや飲酒、寝る前のスマホ時間
このメモがあると、「入眠が主な問題か」「睡眠維持が主な問題か」「実は就床時間が長すぎるのか」などが見えてきます。見える化できると、薬の選択も生活の整え方も、かなり精度が上がります。
ベンゾジアゼピン系:効果と注意点(転倒・健忘・依存)
ベンゾジアゼピン系(いわゆる「ベンゾ」)は、脳のGABAという「ブレーキ役」の働きを強めて、神経の興奮を鎮める薬です。眠気を起こすだけでなく、不安や緊張を和らげる作用もあるため、「不安が強くて眠れない」タイプでは効きやすい一方、効き方が強めで副作用にも注意が必要です[1]。不眠治療の薬物療法を扱うガイドラインでも、効果だけでなく有害事象や依存などのリスクを踏まえた使い方が求められています[5]。
特に高齢者では、ふらつき・転倒(→骨折)を最優先で避ける必要があります。ベンゾは筋肉の力や反射を弱め、判断力も鈍らせます。夜中のトイレで立ち上がったときに足元がふらついたり、思ったより体が動かなかったりして、転倒につながります[12]。また、翌日まで眠気が残る「持ち越し」も起きやすく、運転や危険作業は避ける必要があります。
次に、健忘(記憶が飛ぶこと)です。服用後に起きて行動したことを覚えていない、という形で問題になります。特に飲酒と組み合わさると危険が増えます。お酒も脳を抑制するため、薬の作用が強まり、記憶障害や転倒が起きやすくなります。睡眠薬を飲む日は、基本的に飲酒は避けるのが安全です。
さらに重要なのが依存です。ここでいう依存には、「飲まないと不安で眠れない」「量を増やしたくなる」「やめると反動で眠れなくなる」といった状態も含まれます。ベンゾは長期連用で依存が生じやすいことが知られており、急にやめると不眠の悪化などが出ることがあります[12]。やめるときは自己判断で急に中止せず、医療者と減量計画(少しずつ減らす)を相談してください。[5][20]
また、呼吸が弱い人では注意が必要です。たとえば重いCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などで呼吸機能が低い場合や、いびきが大きく睡眠時無呼吸が疑われる場合は、薬の影響を見直すことがあります。さらに、オピオイド鎮痛薬など他の中枢抑制薬(眠気を強める薬)と重なると、過度の鎮静や呼吸への悪影響が心配になることがあります。併用薬は必ず医師・薬剤師に伝えてください[20]。
ベンゾが向きやすい場面を誤解のないようにまとめると、「不安や緊張が強く、短い期間だけ睡眠を立て直したいとき」です。逆に、ふらつきが心配な人(高齢、骨粗しょう症、夜間頻尿で歩く、めまいがある)、呼吸が弱い人、アルコールをやめられない人、すでに長期連用している人は、別の選択肢も含めて慎重に考えます。薬は効くほど良いのではなく、「その人の生活を壊さない効き方」が大切です。
非ベンゾジアゼピン系:入眠への使いどころとリスク
非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ-drugs)は、名前は違っても作用点はGABA受容体で、ベンゾに近い仲間です。ここでいう「受容体」は、薬がくっつく“スイッチ”のような場所だと思ってください。非ベンゾは、その中でも「眠気に関係しやすいスイッチに寄りやすい(=比較的選びやすい)」タイプとして使われ、主に入眠を助ける目的で処方されます。[1]臨床では「寝つきが悪いが、いったん眠れれば朝まで眠れることが多い」人に使われやすい、と考えると整理しやすいでしょう。
一方で、ベンゾと同様に、ふらつき・転倒、翌日の眠気、記憶への影響、依存の問題は起こり得ます。系統が違うように見えても、脳を「抑える作用」がある以上、注意点は共通します。高齢者の睡眠薬の安全性をまとめたレビューでも、転倒や認知への影響などのリスクを意識して処方すべきことが示されています[12]。
非ベンゾでは、飲み方の工夫が話題になることがあります。たとえば「毎晩必ず飲む」だけでなく、必要な夜だけ使う、という方法を検討する場合です。ゾルピデムの「毎晩ではない使用」を評価した研究も報告されています[2]。もちろん、自己判断で飲み方を大きく変えるのは危険です。ただ、「薬はずっと続けるもの」と決めつけず、睡眠が整ってきたら減薬の計画を立てる、という発想は大切です。
非ベンゾで大事な安全ルールは、「飲んだらそのまま寝る」「飲酒や他の眠気の出る薬と重ねない」です。非ベンゾでよくある失敗は、「寝床でスマホを見ながら、眠くなったら飲む」というパターンです。こうすると、薬を飲んだあとに活動時間が残ってしまい、ふらつきや健忘が起きやすくなります。基本は「飲んだらすぐ寝る」。そして、夜中に追加で飲まない(医師から指示がある場合を除く)。この2つは、薬を安全に使うためのルールだと思ってください。
もう一点、覚えておいてほしい副作用があります。一部の睡眠薬では、完全に目が覚めていない状態で行動してしまう(例:食事、電話、外出など)ことが問題になる場合があります。飲酒、睡眠不足、指示量を超えた服用、ほかの鎮静薬との併用で起こりやすくなることがあるため、家族が気づいたときも含め、異変があれば必ず医療者に相談してください[12]。
また、入眠の薬を選んでも、生活リズムが乱れたままだと効きにくくなります。寝る時刻が日によって2〜3時間ずれる、休日に昼まで寝る、夕方に長く寝る——こうした状態では体内時計がずれ、薬で眠気を作っても土台が整いません。薬を強くするより先に、起床時刻をそろえるほうが効果的な場合があります。行動療法のガイドラインが強調するのも、この「睡眠を支える行動の修正」です[10]。
メラトニン受容体作動薬:体内時計への作用と向く人
メラトニン受容体作動薬は、脳を強く抑え込むタイプの睡眠薬とは、少し考え方が異なります。体内時計に関わるメラトニンの働きを利用し、「眠る時間だよ」という合図を整えるイメージです[1]。そのため、ふらつきや依存のリスクが比較的小さい、という特徴で語られることが多いです。睡眠薬の薬物治療ガイドラインでも、複数の薬の選択肢を比べながら、患者の状況に応じて使い分ける考え方が示されています[5]。
ここで扱う「メラトニン受容体作動薬」は、医師が処方する医薬品です。体内時計を整えるタイプが向くのは、たとえば次のような人です。夜更かしが続いて寝る時刻が後ろにずれている人、寝床に入る時刻は早いのに眠気が来ない人、高齢で夕方からうとうとしやすく夜に眠れない人などです。こうした場合は「強く眠らせる」よりも、「眠気が出る時間を本来の位置に戻す」ほうが合うことがあります。朝の光を増やし、夜の光を減らすといった方法と相性が良いのも、このタイプです[6]。
また、神経変性疾患などで睡眠が乱れる場面では、「外からメラトニンを補う(メラトニンそのもの)」治療の研究もあります。メラトニンを用いた睡眠障害への効果をまとめたメタ解析が報告され、一定の有用性が示されています[16]。メラトニン受容体作動薬はメラトニンと同じ受容体に作用するため、体内時計に働きかける、という点で考え方が近い薬です[1]。
ただし、メラトニン受容体作動薬は、ベンゾや非ベンゾのように「飲んだらすぐ強制的に眠くなる」感覚を期待すると、合わないことがあります。効き方は穏やかで、数日〜数週間の生活調整とセットで効いてくる人もいます。だからこそ、服用時刻が重要です。基本は「決めた時刻に飲み、決めた時刻に起きる」。ここがブレると効果が読み取りにくくなります。
もう一つ大切なのは、相互作用(飲み合わせ)です。薬によっては併用できない薬や注意が必要な薬があり(例:一部の抗うつ薬など)、効き方や副作用に影響することがあります[1]。必ず、今飲んでいる薬(処方薬・市販薬・サプリも)を医師・薬剤師に伝えてください。
薬を選ぶときは、効果だけでなく「その人の困りごと」と「起こしてはいけない副作用」を優先して考えると、失敗が減ります。最後に、3系統を使うときの安全のコツを、2つの観点からまとめます。
- まず安全:高齢、夜間の歩行、飲酒、複数の薬(特に眠気が出る薬)があるなら、転倒と持ち越しを最優先で避ける。必要なら薬を変える・減らす[12]。
- 次に再発予防:薬で眠れた日をゴールにせず、起床時刻を固定し、光・運動・行動療法で土台を整える。CBT-Iは根拠が強い[10][4]。
ここまで読んで「自分はどのタイプだろう」と考えられたなら、もう半分は前に進めています。受診のときは、①不眠の型(入眠か中途か早朝か)、②いつから、③日中の眠気や集中力、④飲酒やカフェイン、⑤今飲んでいる薬、をセットで伝えると、適切な薬の選択につながります。薬は、眠りを取り戻すための道具です。道具は使い方だけでなく、生活の整え方とセットになってこそ力を発揮します。焦らず、でも放置せず、現実的な一歩から調整していきましょう。
ここではベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬の三つの系統の一般的な注意を述べました。日本国内ではこれは全て処方箋医薬品でありドラックストア等では購入できないことに注意してください。薬に以外にもできる生活の改善をしつつ、日常生活に支障が出るようなら心療内科や精神科を受診しましょう。
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