
市販の睡眠補助薬(OTC)って実際どう?抗ヒスタミン薬の効き方と依存の注意点
眠れない夜が続くと、「病院に行くほどではないけれど、今夜だけでも眠りたい」と思うことがあります。そんなとき、手に取りやすいのが市販の睡眠補助薬(OTC)です。実際、睡眠の悩みは珍しくなく、睡眠を助ける手段を利用する人も一定数います[6]。
ただし、OTC睡眠補助薬の多くは「不眠の原因を治す薬」ではありません。主成分は抗ヒスタミン薬(例:ジフェンヒドラミン)で、脳をしずめて眠気を出すタイプです。効いたと感じる人がいる一方で、翌日に残る眠気やふらつき、口の渇き、便秘、排尿のしづらさ、混乱(せん妄)など、生活に影響する副作用が問題になることがあります。また、長く使う前提の薬ではないため、自己判断で連用したり量を増やしたりすると、別のリスクも上がります。
この記事では、抗ヒスタミン薬の「できること/できないこと」を整理し、できるだけ安全に使うためのポイントと、受診につなげる目安をまとめます。
OTC睡眠補助薬の主成分:抗ヒスタミン薬とは
OTC睡眠補助薬でよく使われるのが、第一世代の抗ヒスタミン薬です。もともとはアレルギー症状(鼻水、くしゃみ、かゆみなど)を抑える薬ですが、脳に入りやすく、眠気を起こしやすい性質があります。その「眠気」を目的に、睡眠補助薬として販売されています。
ここで大事なのは、抗ヒスタミン薬は「睡眠の質を整える薬」というより、「鎮静(体と頭をしずめる)で眠気を出す薬」だという点です。つまり、眠れない背景にあるストレス、生活リズムの乱れ、夜更かし習慣、気分の落ち込み、痛み、かゆみ、睡眠時無呼吸、むずむず脚などの原因そのものを直接治す仕組みではありません。不眠の治療では、原因やタイプを見極めて、行動の工夫を中心に組み立てます。たとえば睡眠制限療法(寝床にいる時間をあえて調整して眠気をためる方法)は、ランダム化試験のメタ解析で効果が示されています[17]。欧州の不眠ガイドラインでも、慢性不眠では非薬物療法を土台にすることが強調されています[8]。
一方で、OTCは「いま困っている症状を一時的に軽くする」ための位置づけです。長期的な不眠対策とは目的が違います。だからこそ、薬の特徴を理解したうえで、使う範囲を自分で決めることが大切です。
効果の実態:入眠を助けるが「不眠治療」ではない
抗ヒスタミン薬は、服用後の眠気で「寝つき」を助けることはありますが、慢性不眠を治す薬としては位置づけにくいのが現状です。効き目には個人差が大きく、眠りの深さや翌日の状態まで含めると「はっきり良くなった」と言い切れない人もいます。また、睡眠を良くするための助言(睡眠衛生:カフェインや寝る前のスマホなど生活上の工夫)だけでは、慢性不眠の改善効果が大きくない場合がある、という整理も報告されています[14]。
ここは「不眠治療」と「睡眠補助」を分けて考えると理解しやすいです。不眠治療は、眠れない状態が続く背景(生活習慣、寝床での考えごと、条件づけなど)に手を入れて、再発しにくい形に整えます。代表例がCBT-I(不眠の認知行動療法)で、いくつかの要素を組み合わせます。中でも睡眠制限療法は、効果がメタ解析で示されています[17]。一方、薬物療法を使うときは、対象や薬の種類を整理して考える枠組みも示されています[15]。また、CBT-Iは対面だけでなく、オンラインなど複数の提供形式も研究されています[7]。
一方、OTC抗ヒスタミン薬は、「再発しにくい土台づくり」というより、眠気を作ってその夜を乗り切る発想に近いものです。言い換えると、眠りにくさの原因が残りやすい、ということでもあります。だからOTCを使うなら、「効けばOK」で終わらせず、「なぜ眠れないのか」を少しずつでも確認するのが安全です。
また、行動・心理的アプローチは複数あり、状況に合わせて組み合わせることが推奨されています[9]。つまり、生活改善は大事ですが、それだけで抱え込まないことも同じくらい大事です。必要に応じて、睡眠制限療法のような再現性のある方法も選択肢に入れると、前に進みやすくなります[17]。
副作用とリスク:翌日残り・抗コリン作用・高齢者の注意
抗ヒスタミン薬でいちばん多い困りごとは「翌日に残る眠気」で、運転や危険作業がある人は特に注意が必要です。夜に飲んだはずなのに、翌朝も頭がぼんやりする、集中できない、反応が遅い、といった形で現れます。これは体質や服用量、就寝時刻、睡眠時間、飲酒の有無などで変わります。
もう一つの大きなポイントが、抗コリン作用による副作用です。抗コリン作用とは、唾液・腸・膀胱などの働きを弱めて、口渇、便秘、目のかすみ、尿が出にくい、動悸、ふらつきなどを起こしやすくする作用です。高齢者では、ふらつきが転倒につながったり、急な混乱(せん妄:急に注意や見当識が乱れる状態)につながったりすることがあります。ジフェンヒドラミンを含む試験でも、有効性だけでなく副作用の問題をあわせて考える必要があります[16]。
特に注意したいのは、もともと排尿トラブルがある人(前立腺肥大など)や、便秘がちな人、緑内障のタイプによって注意が必要な人(例:閉塞隅角緑内障の可能性がある場合は要確認)、ふらつきやすい人です。また、風邪薬、鼻炎薬、乗り物酔い止めなどにも抗ヒスタミン薬が入っていることがあり、気づかないうちに“重ね飲み”になって眠気や抗コリン作用が強まる場合があります。OTCを選ぶときは成分表示を必ず確認し、「眠気が出る成分の重複」を避けてください。
服用前に「この人は避けた方がよい」を押さえておくと、事故を減らしやすくなります。目安は次の通りです。
- 翌日に車の運転や危険作業がある人(眠気の残りが事故につながる)
- 高齢者、転倒歴がある人、認知機能に不安がある人(ふらつきや混乱が出やすい)
- 排尿しにくさがある人、便秘が強い人(抗コリン作用で悪化しやすい)
- 抗ヒスタミン薬を含む他のOTCを使っている人(成分重複で副作用が増える)
服用後に「変な夢が増えた」「朝のふらつきが強い」「尿が出にくい」「急に混乱する」などの症状が出た場合、その薬が体に合っていない可能性があります。続けて様子を見るより、いったん中止して薬剤師や医師に相談する方が安全です。
依存と連用の落とし穴:使い方の限界と受診のサイン
OTC睡眠補助薬は「毎晩飲み続ける薬」ではなく、必要なときの短期使用にとどめるのが基本です。抗ヒスタミン薬は、慢性不眠を長期に治療する目的で評価された薬とは言いにくく、連用には慎重になった方がよい、というのが安全面からの現実的な考え方です[16]。
連用が続くと、次のような悪循環が起きやすくなります。まず、薬がないと眠れない気がして不安が強まり、服用が習慣化します。すると、眠れない原因(生活リズムの乱れ、寝床での考えごと、昼寝、ストレス対処の不足など)に手がつかず、結局また眠れない。こうして「薬でその夜をしのぐ」ことが中心になりやすいのです。
ここでいう「依存」は、睡眠薬で問題になりやすい典型的な身体依存(やめたときに強い離脱が出る、など)とは性質が違うことが多いです。一方で、「飲まないと眠れない気がする」という不安からの“心理的な依存(習慣化)”や、慣れ(効きにくさ)を感じて自己増量したくなる、といった問題は起こり得ます。量を増やすほど副作用も増えます。とくに翌日の眠気やふらつきは、仕事や学業のパフォーマンスを落とし、転倒や事故のリスクを高めます。飲酒と組み合わさると鎮静が強まり、危険性はさらに上がります。
では、どう使うのが現実的でしょうか。基本は、「短期」「低用量」「連夜を避ける」「原因に手をつける」をセットにすることです。同時に、治療につなげる判断も欠かせません。不眠の行動療法の一つである睡眠制限療法は効果が示されており[17]、欧州のガイドラインでも診断と治療の流れが整理されています[8]。また、行動・心理的治療を組み合わせる考え方も示されています[9]。
受診の目安は、「重い病気のサインを見逃さないこと」と「長引かせないこと」です。一般に、週3回以上の不眠が3か月以上続くと「慢性不眠」と呼ばれることが多いです。一方で、1か月程度でもつらさが強いなら、早めに相談する価値があります。次のような場合は、OTCで様子見を続けず、医療者に相談してください。
- 不眠が週3回以上続き、自分の工夫だけでは立て直しにくい(睡眠制限療法など、専門的な行動療法の対象になり得ます)[17]
- 日中の強い眠気、集中力低下、気分の落ち込み、不安で生活に支障が出ている[8]
- いびきが大きい、呼吸が止まると言われる、朝の頭痛がある(別の睡眠障害の可能性)[8]
- 脚がむずむずして眠れない、寝ている間に脚がピクつくと言われる(むずむず脚などの可能性)[8]
- OTCを飲む量が増えてきた、飲まないと不安で眠れない(使い方が限界に近いサイン)
- 翌日のふらつき、尿が出にくい、混乱など副作用が出た(安全性の問題)[16]
病院では、「眠れない=すぐ薬」とは限りません。まず状況を整理します。睡眠日誌でパターンを確認したり、生活リズムを整えたりします。必要に応じて、刺激制御(寝床を“眠る場所”として結び直すため、眠れない時はいったん起きる等のルール)や、睡眠制限療法(睡眠圧=起きている時間が長いほど増える“眠気のたまり”を利用する方法)などを組み合わせます[17]。薬を使う場合でも、効果と副作用のバランスを確認しながら、短期間での使用を検討します[16]。
OTC睡眠補助薬は、「たまに使う一時しのぎ」としては選択肢になり得ます。しかし、毎晩の相棒にする薬ではありません。効き目の限界と副作用を理解し、使う範囲を決め、原因にも少しずつ手をつける。この点を押さえるだけで、睡眠の悩みはかなり扱いやすくなります。
- [6] Morin C. et al. (2024). Prevalence of insomnia and use of sleep aids among adults in Canada. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39369578/ (Accessed: 2026-02-24)
- [17] Maurer L. et al. (2021). The clinical effects of sleep restriction therapy for insomnia: A meta-analysis of randomised controlled trials. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33164742/ (Accessed: 2026-02-24)
- [8] Riemann D. et al. (2023). The European Insomnia Guideline: An update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023. Available from: https://doi.org/10.1111/jsr.14035 (Accessed: 2026-02-24)
- [14] Chung K. et al. (2018). Sleep hygiene education as a treatment of insomnia: a systematic review and meta-analysis. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16335333/ (Accessed: 2026-02-24)
- [16] Morin C. et al. (2005). Valerian-hops combination and diphenhydramine for treating insomnia: a randomized placebo-controlled clinical trial. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27998379/ (Accessed: 2026-02-24)
- [7] Gao Y. et al. (2022). Comparative efficacy and acceptability of cognitive behavioral therapy delivery formats for insomnia in adults: A systematic review and network meta-analysis. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33984745/ (Accessed: 2026-02-24)
- [15] Sateia M. et al. (2017). Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35759820/ (Accessed: 2026-02-24)
- [9] Edinger J. et al. (2021). Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29194467/ (Accessed: 2026-02-24)









