
アトピー性皮膚炎の保湿ケア——なぜ必要で、どう使うか
アトピー性皮膚炎のスキンケアでは、保湿は「補助」ではなく治療の土台です。皮膚が乾燥するとかゆみが強くなり、かくことでさらに皮膚が傷つき、炎症が悪化しやすくなります。この悪循環を断ち切るために、毎日の保湿が重要です。診療ガイドラインでも、保湿剤の継続使用は基本治療の一つと位置づけられています。とくに症状が落ち着いている時期でも続けることが、再燃を減らすうえで大切です[1]。この記事では、なぜ保湿が必要なのか、どのような保湿剤をどう選ぶのか、どう塗ればよいのかを、日常でそのまま実践できる形で整理します。
アトピー性皮膚炎で保湿ケアが重要な理由
アトピー性皮膚炎では、皮膚のいちばん外側にある角層のバリア機能が弱くなっています。すると皮膚の中の水分が逃げやすくなり、外からの刺激物、汗、摩擦、細菌などの影響も受けやすくなります。乾燥した皮膚は、ひび割れた地面のようにすき間が多く、少しの刺激でもかゆみや赤みにつながります[1]。
保湿剤には、角層の水分を保ち、皮膚表面を守り、バリア機能の回復を助ける役割があります。臨床研究では、グリセリンを含む保湿剤によって角層の水分量が増え、経皮水分蒸散量、つまり皮膚から自然に失われる水分量が改善し、バリア機能の回復が示されました[3]。また、乳幼児を対象としたオープンラベル研究では、洗浄と保湿を組み合わせた方法の安全性と忍容性が確認されています[15]。つまり保湿は、単に「しっとりさせる」だけでなく、壊れたバリアを支える基本のケアでもあります。
もう一つ大切なのは、保湿が炎症治療を支える点です。アトピー性皮膚炎では、炎症があるとさらにバリアが壊れ、バリアが壊れるとさらに炎症が起こる、という循環が生じます。保湿を続けることで、この循環を弱めやすくなります。実際に、乳児の研究では保湿剤を併用した群で、強い外用ステロイドの使用量が少なくなりました[7]。保湿だけで炎症を完全に抑えることはできませんが、薬の効果を支え、必要以上に強い治療に頼りすぎないための助けになります。
皮膚環境という面でも、保湿は大切です。アトピー性皮膚炎の皮膚では、pHの変化やバリア障害のために黄色ブドウ球菌が増えやすく、それが毒素や酵素を出して皮膚の傷みをさらに悪化させることがあります[6]。保湿はこのバリア障害に対する基本ケアであり、結果として皮膚環境の改善が期待されます。ただし、保湿だけで細菌の問題を直接解決できるわけではありません。
また、症状が軽い日でも保湿を省かないことが大切です。ガイドラインでも、症状の有無にかかわらず保湿を続けることが勧められており、再燃を減らすには「悪くなってから塗る」より「悪くなる前から塗っておく」ほうが合理的です[1]。
保湿剤の種類と肌状態に合わせた選び方
保湿剤にはいくつかのタイプがあります。クリーム、軟膏、ローション、乳液、フォームなど形はさまざまですが、大切なのは名前よりも「今の肌に合っているか」です。一般に、べたつきはあるものの保護力が高いのは軟膏や油分の多い製剤で、使用感が軽いのはローションや乳液です。乾燥が強い、冬に悪化しやすい、ひじやひざ、手足などカサつきが目立つ部位には、やや重めの剤形が向きます。逆に、汗をかきやすい季節や顔、首、毛が多い部位では、のびがよく軽い剤形のほうが続けやすいことがあります[1]。
成分としては、ワセリンのように皮膚表面を覆って水分蒸散を抑えるもの、グリセリンや尿素のように水分を引き寄せるもの、セラミド関連成分のように角層を補う考え方のものがあります。臨床研究では、グリセリン配合保湿剤が水分量とバリア機能を改善しました[3]。一方で、小児の比較試験では、パラフィン系保湿剤とセラミド系保湿剤の間で、症状改善や経皮水分蒸散量、ステロイド使用量に大きな差はみられませんでした[17]。少なくともこの試験では、「高価な保湿剤でないと効かない」とまでは言えません。大切なのは、刺激が少なく、毎日十分量を続けられることです。なお、尿素配合の保湿剤は乾燥肌に役立つことがありますが、赤みが強い部位や掻きこわしがある部位ではしみることがあります。
保湿剤選びで実用的なのは、次の視点です。
- しみないか。塗ったときに強く痛む製品は続けにくく、皮膚状態にも合っていないことがあります。
- のばしやすいか。広い範囲に毎日塗るなら、短時間で塗れることは大切です。
- 季節と部位に合うか。冬や四肢には重め、夏や顔には軽めが合いやすいことがあります。
- 家族が続けやすいか。価格、入手しやすさ、容器の使いやすさも継続には重要です。
国際的なレビューでも、1日2回程度の定期的な保湿は皮膚バリアを改善し、再燃の頻度を下げることが示されています[20]。つまり、保湿剤は「何を選ぶか」も大切ですが、それ以上に「合うものを継続する」ことが効果につながります。
乳幼児では、香料や刺激になりうる添加物が少ないものを選ぶと無難です。乳幼児の皮膚は薄く、少しの摩擦や刺激でも荒れやすいためです。実際、乳幼児を対象にした洗浄・保湿製品の研究では、安全性と忍容性が確認されています[15]。ただし、「赤ちゃん向け」と書かれていても、全員に合うとは限りません。塗って赤みや刺激感が強まるなら、見直しが必要です。
なお、保湿剤は炎症を止める薬ではありません。赤み、ぶつぶつ、強いかゆみがある部分には、医師から処方された外用ステロイドやタクロリムスなどの抗炎症薬が必要になることがあります[1]。保湿だけで長く我慢すると、かえって悪化して治りにくくなります。
保湿剤の正しい塗り方・量・タイミング
保湿剤は、少量をたまに塗るよりも、十分量を毎日塗ることが大切です。入浴後すぐと朝の1日2回を基本にすると続けやすく、日中の乾燥や摩擦への対策にもなります。[1][20] 現場でよくある失敗は、「うすくのばしすぎる」「乾いたところにだけ少し塗る」「良くなったらすぐやめる」の3つです。これでは皮膚全体のバリアを保ちにくくなります。
タイミングとしては、入浴後のまだ皮膚がしっとりしているうちが最も塗りやすく、理にもかなっています。入浴後は角層に水分が入っていますが、放っておくと蒸発しやすいため、早めに保湿剤でふたをするのが有効です[1]。朝にも塗れると、日中の乾燥や摩擦への対策になります。レビューでも、通常は1日2回程度の保湿が推奨されています[20]。
量の目安は、皮膚に軽くつやが出る程度です。塗った直後に完全にさらさらで、何も塗っていないようなら少なすぎることがあります。処方薬で用いるFTUという考え方を保湿剤にも応用すると、成人の手のひら2枚分の面積に対して、指先から第一関節まで出した量を1本分ほどが一つの目安になります。ただし保湿剤は処方薬より広い範囲に使うため、実際にはそれより多めになることも珍しくありません。大切なのは、乾燥が残らない量を惜しまず使うことです。
塗り方で大切なのは、強くこすり込まないことです。摩擦そのものが刺激になります。手のひらでやさしく広げ、毛の流れに沿ってのせるように塗ります。とくに乳幼児は皮膚が薄いため、マッサージのように何度もこする必要はありません。背中や四肢など広い範囲では、何点かに置いてから広げるとむらなく塗れます。
実践しやすい手順をまとめると、次の通りです。
- 入浴後すぐと朝の、1日2回を基本にする。
- 赤みがない部位も含め、乾燥しやすい範囲に広く塗る。
- 皮膚に軽くつやが残る量を使う。
- こすらず、やさしく広げる。
- 良くなっても急にやめず、維持目的で続ける。
続けるコツも大切です。保湿は効果がゆっくり表れるため、自己流になりやすいケアです。家に複数の剤形を置き、部位ごとに使い分けると続けやすくなります。たとえば、顔は軽いクリーム、体幹は普段使いしやすい乳剤、すねや手は重めの軟膏という形です。小児では保護者が塗ることが多いため、「お風呂のあとに全身」「朝の着替え前にひじ・ひざ・首」など、生活の流れに組み込むと忘れにくくなります。
なお、一部の研究では、炎症を適切に抑えることで皮膚から失われる水分量が下がり、バリア機能の改善がみられています[8]。ただし、使うステロイドの強さや部位、年齢は個別に調整が必要です。つまり、保湿だけを頑張るより、必要なときには抗炎症薬を正しく使うほうが、結果として皮膚を早く立て直せます。
入浴・洗浄・外用薬併用で気をつけるポイント
入浴は、汚れや汗、刺激物を落とす意味で大切ですが、やり方を誤ると乾燥を悪化させます。長風呂、熱すぎるお湯、強い洗浄剤、ナイロンタオルでごしごし洗うことは避けましょう。熱いお湯はかゆみを強めやすく、必要な皮脂まで落としすぎてしまいます。洗浄料は低刺激のものをよく泡立て、手でやさしく洗うのが基本です[1]。汗をかいた日は洗ったほうがよいですが、汚れていない部位まで何度も強く洗う必要はありません。
洗ったあとは、タオルで押さえるように水分を取り、すぐに保湿します。この「洗って、こすらず拭いて、すぐ塗る」という流れが大切です。乳幼児では、洗浄と保湿を組み合わせた方法の安全性と忍容性が確認されています[15]。
外用薬との併用では、まず役割を分けて理解すると混乱しません。保湿剤は乾燥とバリアのケア、外用ステロイドやタクロリムスは炎症の治療です[1]。赤い、盛り上がる、じゅくじゅくする、強くかゆい部位には抗炎症薬が必要になりやすく、乾燥だけの部位では保湿剤が中心になります。
塗る順番については、すべての製剤で厳密に統一された見解があるわけではありませんが、実際には混ぜずに別々に塗ることが重要です。外用薬を炎症部位に塗り、その後に保湿剤を周囲や全体に塗る方法はわかりやすく、塗り分けもしやすい方法です。逆の順番を指示される場合もあるため、処方時の説明があればそれに従ってください。大切なのは、自己判断で混合してしまわないことです。混ぜると薬の濃度や塗布量があいまいになり、効き方や刺激感が変わるおそれがあります。
ステロイド外用薬を怖がって極端に少なく塗ると、炎症が残ってかゆみが続き、結局はかき壊して悪循環になります。一方で、漫然と強い薬を長期に使うことも避けるべきです。医師の指示どおり、部位と時期に合った強さを使い、良くなったら保湿中心の維持に移ることが基本です[1]。小児の実地向けアルゴリズムでも、再燃を繰り返す人には保湿の継続に加え、見た目が良くなった後も再発しやすい部位に週に数回ほど抗炎症薬を続けて再燃を防ぐ、いわゆるプロアクティブ治療が勧められています[18]。
タクロリムスなどの外用カルシニューリン阻害薬は、ステロイドとは別の仕組みで炎症を抑える外用薬です。顔や首など、皮膚の薄い部位で選択肢になることがあります。小児の試験では、タクロリムス軟膏は基剤、つまり有効成分を含まない軟膏に比べて症状改善に優れていました[10]。初期にしみる感じやほてり感が出ることはありますが、それだけで重い副作用とは限りません。ただし、年齢や濃度、使う部位には適応上の注意があるため、乳幼児にそのまま使えるとは限りません。使用の可否や塗る場所は、必ず医師の指示に従ってください[1]。また、発がんリスクについては長年議論がありますが、観察研究では皮膚がんリスクの明確な増加は一貫して示されていない一方で、まだ議論が残る点もあります[16]。不安がある場合は自己判断で中断せず、主治医に確認するのが安全です。
最後に、保湿をしていても受診の目安がなくなるわけではありません。夜も眠れないほどかゆい、保湿しても乾燥や赤みが強い、じゅくじゅくして痛む、黄色いかさぶたが増える、急に悪化した、といったときは早めに皮膚科へ相談してください。
アトピー性皮膚炎の保湿ケアでいちばん大切なのは、特別な技術よりも、肌に合うものを十分量、毎日、長く続けることです。乾燥を放置しないことが、かゆみを減らし、炎症の悪化を防ぎ、生活の質を守る近道です。
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