令和8年度改定で一部の経腸栄養剤の保険給付要件が見直し——何が変わり、誰に影響するのか

令和8年度改定で一部の経腸栄養剤の保険給付要件が見直し——何が変わり、誰に影響するのか

【結論】対象栄養剤は記載要件明確化

令和8年度改定で一部経腸栄養剤の保険算定条件が変更されるため

  • 対象は在宅患者向けたん白アミノ酸製剤で、イノラスやエンシュア等6製品が該当
  • 薬局は処方箋の記載を確認し保険調剤の可否を判断、必要時は医師へ照会する
  • 自己判断で減量・中止せず、食事量や体重変化を主治医・薬剤師へ具体的に伝える

経腸栄養剤の保険給付要件の見直しで、確認が必要な人とは

「食事だけでは体重を保てないため、栄養剤を飲んでいる」「退院後も毎日、栄養剤を続けるよう言われた」。このような人にとって、経腸栄養剤は単なる飲み物ではありません。病気や手術後の回復を支え、必要なエネルギー、たんぱく質、ビタミンなどを補うために使われる医薬品です。

令和8年度の診療報酬改定では、栄養を保つ目的で使われる一部の医薬品について、保険での扱いを見直すことが示されました。診療報酬とは、病院や薬局が保険診療を行った際に、保険者へ請求する医療費のルールです。患者にとっては、処方された栄養剤を保険診療として扱うために、どのような確認が必要かに関わる仕組みです。[1]

今回見直される中心は、対象薬を処方できるかどうかではなく、保険診療として薬剤料などを算定するための要件です。 入院中ではない患者に対象薬を投薬する場合、所定の記載がなければ、資料に示された調剤料や薬剤料などは算定しない取扱いとされています。[1]

すべての経腸栄養剤が同じ扱いになるわけではありません。対象は、入院中ではない患者に処方する医薬品のうち、薬の分類が「たん白アミノ酸製剤」で、効能・効果が「一般に、手術後患者の栄養保持」とされ、飲んで使用する方法も含まれるものです。経腸栄養とは、口や胃ろうなどを通して消化管に栄養を入れる方法をいいます。[1]

資料では、2026年3月時点の対象医薬品として、イノラス配合経腸用液、エンシュア・リキッド、エネーボ配合経腸用液、ツインラインNF配合経腸用液、エンシュア・H、ラコールNF配合経腸用液が示されています。ただし、自分の処方が対象かどうかを製品名だけで自己判断しないでください。処方の目的、栄養を取る方法、病状によって扱いが分かれるためです。[1]

確認が必要なのは、入院中ではない患者のうち、対象となる一部の医薬品を処方されている人です。在宅療養中の人、介護施設にいる人、外来へ通院している人などが含まれ得ますが、生活場所だけで取扱いが決まるわけではありません。胃ろうや経鼻チューブなどを通じて栄養を入れている人は、保険で算定できる条件の一つに当てはまります。口から飲んでいる場合でも、食事だけで必要な栄養を取ることが難しく、医師が投与が必要と判断した理由が記載されれば、算定可能とされています。[1]

一方で、「以前から処方されているから」「食事の代わりとして便利だから」という事情だけでは、制度上必要な記載につながらないことがあります。医療上の必要性がある患者については、所定の事項や理由を記載することで算定可能とされています。

臨床現場では、同じ製品でも、手術後なのか、チューブによる栄養補給なのか、食事を十分に取れないのかで確認する内容が変わります。体重減少、むせ、食欲低下、食事量の減少があれば、主治医や薬剤師に具体的に伝えることが大切です。

令和8年度改定で何が変わる?見直しの対象と制度の仕組み

今回示されている見直しでは、対象となる医薬品を入院中ではない患者に処方した場合、原則として調剤料、処方料、薬剤料、処方箋料、調剤技術基本料を保険診療として算定しない扱いになります。算定とは、医療機関や薬局が保険に請求できる費用として計上することです。日常の言葉でいえば、「保険を使った診療・調剤として請求できる条件を満たすか」を確認するという意味です。[1]

ただし、保険で算定できる条件も示されています。患者が手術後である場合、または胃ろうや経鼻チューブなどの経管で栄養を補給している場合は、その旨を記載します。食事から必要な栄養を取ることが難しい人などで、医師がその医薬品の投与が必要と判断した場合は、その理由を記載します。[1]

手術後・経管栄養では該当することを、食事摂取が難しい場合などでは医師が必要と判断した理由を、処方箋と診療報酬明細書の両方に記載することが必要です。[1]

診療報酬明細書は、医療機関や薬局が保険者へ医療費を請求するための明細です。患者が通常目にする領収書とは別の書類です。処方箋への記載と、請求時の診療報酬明細書への反映は、主として医療機関や薬局側が行う実務です。患者本人が明細書を作成する必要はありません。

たとえば、退院後に胃ろうから栄養剤を入れている人なら、「経管により栄養補給を行っている」という事情が確認されます。口から飲んでいる人でも、治療後に食事量が大きく減っている、飲み込みにくく食事だけでは必要量を確保できない、といった事情があり、医師が投与の必要性を判断すれば対象になり得ます。制度上は、症状や生活上の困りごとを医師が確認し、必要な事項を記録することがポイントです。[1]

ここで誤解しやすいのは、「書類に記載がなければ、栄養剤を絶対に使えない」という意味ではないことです。資料が定めているのは、保険診療として費用を算定するための条件です。必要な記載が確認できない場合には、薬局から処方医へ確認が行われることがあります。提示資料だけから、患者負担が一律にどのように変わるかまでは断定できません。

MogiMed編集部の見解では、この見直しで大切なのは「栄養剤を飲んでいるか」だけでなく、「なぜその人に医療用の栄養剤が必要なのか」を医療者と共有することです。体重、食事量、食べにくさ、栄養を取る経路を日頃から伝えておくと、制度上の確認にも治療の判断にも役立ちます。

在宅・施設・医療機関への影響と確認したいポイント

在宅療養では、本人だけでなく、家族が栄養剤の準備、保管、飲む量の確認を担っていることが少なくありません。処方箋を持って薬局へ行った際に、「医療機関へ確認します」と言われると、不安になるかもしれません。しかし、薬局が処方内容を疑っているのではなく、保険での取扱いに必要な記載を確認している場合があります。

薬局では、処方箋に必要な記載があるかを確認したうえで、保険調剤として算定できるかを判断します。 必要に応じて処方医へ照会するため、通常より受け取りまでに時間がかかる可能性があります。[1]

医療機関側も、診療録、処方箋、保険請求の明細書で内容に食い違いがないようにする必要があります。患者が薬局で待つ時間が長くなることもありますが、在庫や医療機関との連絡状況によって対応は異なります。受け取り予定日が近い場合や残量が少ない場合は、早めに薬局へ相談するとよいでしょう。

施設にいる人の場合は、施設職員、訪問診療医、病院、薬局、管理栄養士など、関わる人が複数になることがあります。食事の摂取量が減った日、むせが増えた日、体重が落ちた時期などの情報が、処方医に届いていないこともあります。栄養剤が必要な理由を判断するには、こうした日常の変化が大切な材料になります。

確認したい点は三つです。第一に、現在使っている栄養剤の名前と、口から飲んでいるのか、チューブを使っているのかです。第二に、栄養剤が必要な理由です。手術後の回復、食事量の不足、飲み込みにくさなどを具体的に伝えます。第三に、次回の処方日までに、処方箋や利用中の制度に変更がないかです。

医療費の助成制度を利用している人は、経腸栄養剤の見直しと、他の助成制度を混同しないことも大切です。たとえば、自立支援医療は、心身の障害を軽くするための医療費の自己負担を軽減する制度で、対象となる医療や医療機関が定められています。経腸栄養剤の保険請求の条件とは別の制度です。[12]

また、難病医療費助成は、指定難病について長期療養による経済的負担を支える制度です。対象となる病気の診断基準や重症度などに基づいて扱われます。経腸栄養剤が必要であることだけで、この制度の対象になるわけではありません。助成を利用していても、保険診療上の要件は別に確認が必要です。[4]

臨床現場では、手続きへの不安から栄養剤の量を減らしたり、急にやめたりしないことが重要です。量や回数を変える必要があるかは制度だけでなく治療上の判断にも関わるため、主治医、訪問看護師、管理栄養士、薬剤師へ相談してください。

経腸栄養剤の保険給付要件の見直しに備えるためにできること

見直しに備える際、まず必要なのは、家庭で大量に買い置きすることではありません。医療用の栄養剤は、病状に合わせて種類や量が選ばれています。自己判断で備蓄したり、市販品へ一律に置き換えたりすると、必要な栄養量が合わなくなるおそれがあります。

受診時の情報共有に役立つ工夫として、次回受診までに「1日にどのくらい食べられているか」「栄養剤を何本、どの時間に使っているか」「体重や便通、吐き気、むせに変化があるか」を簡単にメモしておくとよいでしょう。これは制度の申請書類ではありませんが、医師が栄養剤の必要性や続け方を考える際の参考になります。

自己判断で栄養剤を減らしたり中止したりせず、食事量や体重の変化を主治医や薬剤師へ具体的に伝えてください。

主治医へは、「この栄養剤は今回の見直しの対象ですか」「私の場合、手術後・経管栄養・食事摂取困難のどの理由で必要と判断されていますか」と聞いて構いません。質問することは、制度を疑うことではありません。治療を続けるために必要な確認です。

薬局では、「処方箋に確認が必要な記載はありますか」「次回も同じ薬局で受け取る場合に、準備しておくことはありますか」と尋ねるとよいでしょう。薬局は処方箋を受け取った後に医療機関へ照会することがあります。照会とは、処方内容について医師へ確認する手続きです。必要な確認を早めに済ませれば、受け取り時の行き違いを減らせます。

医療機関側では、対象薬を外来や在宅の患者へ処方する際、手術後であること、経管栄養を行っていること、または食事から必要な栄養を取ることが難しく投与が必要である理由を確認し、処方箋と明細書へ反映する対応が求められます。薬局側は、その記載を確認して保険調剤として扱うことになります。[1]

患者にできる役割は、医学的な判断を自分で行うことではありません。「最近は半分しか食べられない」「栄養剤を飲むとむせる」「チューブの管理に困っている」といった事実を、遠慮なく伝えることです。こうした情報があれば、医療者は栄養剤の種類、量、投与方法、受診の必要性を検討しやすくなります。

処方日数についても、今回提供された資料では、一律に短くなる、または長くなるというルールは示されていません。そのため、「改定後は何日分まで」といった情報を見聞きしても、そのまま信じず、処方医または薬局へ確認してください。資料で確認できる中心的な点は、対象の栄養剤を保険で扱うために、医療上の必要性に関する事項を記載するということです。[1]

MogiMed編集部の見解では、制度変更の時期は、処方箋の確認や医療機関への照会に時間がかかる場合も想定して、残量に余裕をもって薬局へ連絡することが安心につながります。

まとめ

令和8年度改定では、入院中ではない人に処方される一部の経腸栄養剤について、保険で算定するための記載要件が明確になります。 手術後であること、チューブで栄養を入れていること、食事だけでは必要な栄養を取れず医師が投与を必要と判断したことなどを、処方箋と保険請求の明細書に記載することがポイントです。[1]

見直しがあるからといって、必要な人が栄養剤を使えなくなると決まったわけではありません。医療上の必要性と所定の記載が確認できる場合には算定可能である一方、記載がない場合は算定しない取扱いになります。食事量や体重の変化を伝え、薬局で処方箋を出す際にも相談することで、不安を小さくできます。

「何が変わり、誰に影響するのか」という問いへの答えは、入院中ではない患者に対象となる一部の栄養剤を投薬する場合、保険算定に必要な記載要件が明確化されるということです。在宅、施設、外来などで対象薬を使う人は確認が必要ですが、生活場所や経口投与であることだけで算定対象外になるわけではありません。次回受診時に主治医と薬剤師へ確認してください。

  1. [1] 厚生労働省保険局医療課 (2026). 令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】p.55 栄養保持を目的とした医薬品(経腸栄養剤・濃厚流動食)の保険給付の適正化. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf (Accessed: 2026-08-13)
  2. [4] 難病情報センター (2026). 指定難病患者への医療費助成制度のご案内. Available from: https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460 (Accessed: 2026-08-13)
  3. [10] 不明 (2026). 2026年1月28日 中央社会保険医療協議会 総会 第645回議事録. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70415.html (Accessed: 2026-08-13)
  4. [12] 厚生労働省 (2026). 自立支援医療制度の概要. Available from: https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsu/gaiyo.html (Accessed: 2026-08-13)
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