
処方される経腸栄養剤と市販の栄養補助食品は何が違う?——切り替え時の注意点
【結論】組成・用法・病状適合が違う
見た目が似ていても、必要栄養量や使い方の設計が処方品と市販品で異なるため
- 同じ200kcal表示でもたんぱく質・電解質・水分量は製品ごとに異なり、本数を合わせても1日摂取量は変わる
- 薬局では成分だけでなく飲める量・むせ・便通・併用薬・チューブ使用有無まで確認し個別に適否を判断している
- 切り替え前は処方箋と製品の栄養成分表示を持参し、体重・食事量・体調を医師・薬剤師・管理栄養士に伝えて相談を
「ドラッグストアに似たような飲み物があるなら、処方された栄養剤を市販品に替えても同じではないか」と思うかもしれません。味が苦手、飲み切れない、費用が気になるなど、替えたい理由は人それぞれです。しかし、見た目が紙パックや缶の飲み物でも、処方品と市販品は同じ役割とは限りません。食事量が落ちている時期に替えると、必要な栄養や水分が足りなくなることがあります。
経腸栄養とは、口、または胃や腸につながるチューブから、消化管を使って栄養を補給する方法です。経腸栄養剤には、口から飲む製品と、チューブから注入する製品があります。「経腸」という言葉は、必ずチューブを使う意味ではありません。
窓口で栄養剤の費用や保険上の取扱いの説明を受け、以前との違いに戸惑うこともあります。栄養剤は、病気、手術後の状態、食べる力、腎機能、血糖値などを踏まえて使われます。値段だけで比べず、今の自分に必要な栄養を満たせるかを考えることが大切です。
処方される経腸栄養剤と市販品の違い
処方される経腸栄養剤には、医薬品として承認された効能・効果と用法・用量があります。手術後で十分に食べられない場合、飲み込む力が弱い場合、チューブで栄養を入れている場合などには、医療者が状態に合わせて使用を検討します。
令和8年度診療報酬改定では、入院中ではない患者に使う医薬品のうち、薬効分類、効能・効果、用法・用量が所定の条件を満たす一部の製品について、保険請求のための条件が見直されます。これはすべての経腸栄養剤や、すべての処方場面に当てはまるものではありません。[4]
診療報酬は、医療機関や薬局が保険診療を行った時に保険へ請求する費用の仕組みです。この見直しは、患者の健康保険の資格そのものを制限するものではありません。処方箋に必要な記載がない時は、薬局から処方医へ確認が行われることがあります。
ここでいう「市販の栄養補助食品」は、店舗や通信販売などで買える食品扱いの製品をまとめた呼び方です。市販品の中にも、少量でエネルギーやたんぱく質を補う製品や、医療・介護の場で使われる濃厚流動食があります。医薬品か食品かだけで、栄養の足りやすさやチューブで使えるかどうかは決まりません。
大切なのは、カロリー表示の有無ではなく、食事を含めた1日の必要量を実際に取れるかです。同じ200kcalと書かれていても、たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、ビタミン、ミネラル、電解質の量は製品ごとに違います。電解質とは、ナトリウムやカリウムなど、体の水分や神経・筋肉の働きに関わる成分です。
処方される栄養剤では、飲む量、回数、速度まで医療者が決めることがあります。特にチューブから使う場合は、濃さや注入速度が合わないと、下痢、腹部の張り、吐き気などにつながることがあります。薬局では、口から飲む製品か、チューブ投与を想定した製品か、開封後にどう扱うかも確認します。
また、高齢の方や複数の病気を抱える方では、低栄養や脱水の危険を早めに見つけ、一人ひとりに合った栄養支援を行うことが勧められています。低栄養とは、必要なエネルギーやたんぱく質などが不足し、筋肉や体力、回復力が低下した状態です。[17]
MogiMed編集部の見解では、処方品か市販品かの二択ではなく、成分、飲める量、使い方、病状への合い方を比べることが重要です。
市販の栄養補助食品へ切り替える際に起こりやすい問題
起こりやすい問題は、「飲めているから大丈夫」と思っていたのに、必要な総量が足りなくなることです。処方の栄養剤を1日2本飲んでいた人が、容量の小さい市販品へ同じ本数で替えると、1日に取れるエネルギーやたんぱく質が減る可能性があります。反対に、甘くて飲みやすい製品を多く飲むと、糖質や脂質の取り方が偏ることもあります。
食事量が少ない状態では、1本分の差が毎日積み重なります。朝食をほとんど食べられず、昼も半分しか食べられない時、処方された栄養剤は不足分を補う計画に入っている場合があります。別の商品に替えると、食事と栄養剤を合わせた1日の計画が変わることがあります。
下痢や便秘、腹部の張りも見逃せません。栄養剤の濃さ、脂質の量、食物繊維の種類、飲む速さ、冷たさなどは、お腹の調子に影響します。急に製品を替えて下痢が続けば、栄養だけでなく水分も失われます。下痢があれば栄養剤が原因と決めつけず、感染症、薬の副作用、飲み方なども含めて医療者に確認してください。
糖尿病がある方や血糖値が上がりやすい方では、糖質の量や吸収の速さにも注意が必要です。市販品に替えた後に食後の血糖が上がりやすくても、自己判断で栄養剤を中止したり、糖尿病の薬を減らしたりしてはいけません。処方の調整が必要かは、診察や薬局で相談しましょう。
腎機能が低下している方、心不全などで水分量の調整が必要な方、嚥下障害がある方では、単純な置き換えによって病状悪化や誤嚥につながる可能性があります。嚥下障害とは、食べ物や飲み物を安全に飲み込みにくい状態です。液体のとろみや量が合わないと、むせたり、気管に入り込んだりするおそれがあります。
高齢者に対する経口栄養補助では、栄養状態の改善や、低栄養の人における死亡・合併症の減少を示した研究があります。一方で、栄養状態が良い人も含めて、誰にでも一律に使えばよいという結論ではありません。吐き気や下痢などの消化器症状も報告されており、本人の状態に合わせる必要があります。[16]
市販品へ替える時は、「同じ本数」ではなく、食事を含めた1日の栄養量と、実際に飲める量を比べてください。 臨床現場では、製品名だけでなく、体重、食事量、便通、血糖値、水分量を合わせて見ます。
切り替え前に確認したいエネルギー・たんぱく質・水分量
切り替えを考えたら、製品名だけを見比べるのではなく、現在の処方と候補の商品を同じ単位で比べます。確認したいのは、「1本当たり」だけでなく、「1日に実際に取る量」です。パッケージの栄養成分表示、現在の処方箋、お薬手帳を持って薬局や受診先へ行くと、確認しやすくなります。
- 1本の容量とエネルギー量:同じ本数でも1日の摂取量が変わるため
- たんぱく質、電解質、食物繊維:病状や便通、腎機能などへの合い方が異なるため
- 製品に含まれる水分量:追加で必要な水分や水分制限を考えるため
- 経口用かチューブ投与を想定した製品か:詰まりや衛生面の問題を避けるため
- 開封後の保存方法と1日当たりの費用:安全に続けられるかを考えるため
エネルギーは体を動かす燃料で、kcal(キロカロリー)で示されます。たんぱく質は筋肉、皮膚、血液などの材料です。水分は飲み物だけではありません。栄養剤、汁物、ゼリー、食事に含まれる水分も関係します。ただし、心臓や腎臓の病気で水分制限がある場合は、水分が多い方がよいとは限りません。
例えば、処方の栄養剤を1日2本使っていた場合、市販品も2本にすれば同じと考えるのは早計です。1本の容量が違えば、エネルギーも水分も変わります。飲み切れず1本半になれば、実際の摂取量はさらに下がります。
体重の変化も重要です。数日で急に減った、衣服が緩くなった、食べる量が以前の半分程度になった、疲れて食事を続けられない、といった変化がある時は早めに相談してください。成人入院患者向けのガイドラインでは、栄養上のリスクを評価する時、栄養状態だけでなく病気の重さも考慮するとされています。[11]
なお、長く十分に食べられていなかった人が栄養を急に増やす時には注意が必要です。栄養の再開後に、リン、カリウム、マグネシウムなどの血液中の値が変動する「リフィーディング症候群」が問題になることがあります。これは医療機関での評価と管理が必要な状態であり、自己流で量を急に増やさない理由の一つです。[15]
薬局では、製品を替える相談を受けた時、栄養成分だけでなく、飲める量、むせの有無、便の状態、併用薬、チューブ使用の有無を確認します。チューブを使っている場合は、市販品かどうかではなく、チューブ投与を想定した製品か、粘度や衛生管理、投与方法が合うかを個別に確かめる必要があります。
チューブへ入れる製品を替える時は、自己流で行わず、医師・訪問看護師・薬剤師に製品ごとの適否を確認してください。 MogiMed編集部の見解では、表示上の数値と、実際に続けて取れる量の両方を見ることが大切です。



自己判断は避け、医師・薬剤師・管理栄養士に相談を
令和8年度診療報酬改定では、対象となる一部の栄養保持目的の医薬品を、入院中ではない患者に処方する際の算定要件が見直されます。手術後であること、チューブで栄養を入れていること、または食事から必要な栄養を取りにくく医師が必要と判断した理由などを、処方箋と診療報酬明細書の両方に記載する取扱いです。[4]
これは、対象の医薬品を保険請求するための記載上の条件です。必要な記載がない場合は、薬剤料や調剤に関する費用などを算定しない取扱いとなります。患者が理由を自分で処方箋に書く必要はありませんが、処方時には「手術後で食べられない」「チューブ栄養をしている」「食事量が減って体重が落ちている」など、実際の状況を正確に伝えることが大切です。[4]
医師は、病気の状態や検査値を踏まえ、栄養剤が必要か、ほかの治療との兼ね合いはどうかを判断します。薬剤師は、処方箋の内容、飲み方、ほかの薬との飲み合わせ、製品変更時の注意点を確認します。管理栄養士は、普段の食事も含めて、必要なエネルギー・たんぱく質・水分を考える専門職です。
相談時には、「市販品へ替えたい」だけでなく、その理由を具体的に伝えてください。例えば、味が苦手、量を飲み切れない、費用が気になる、下痢がある、持ち運びにくい、といった事情です。理由が分かれば、量や回数、温度、別の栄養設計、食事の工夫などを検討できることがあります。
高齢者では、栄養だけでなく水分不足も起こりやすいため、個別に評価して対応することが勧められています。食事制限を必要以上に厳しくすると、かえって食べられる量が減ることもあります。病気ごとの制限がある場合でも、自己流で制限を強めず、主治医や管理栄養士と調整しましょう。[17]
臨床現場では、栄養剤を「飲めた本数」だけで評価せず、食事を含めた総摂取量、体重、便通、むせ、血糖、生活のしやすさを合わせて判断します。市販品を試すこと自体が常に悪いわけではありませんが、治療の一部として使っている栄養剤の代わりにするなら、事前の確認が必要です。
結論として、処方される経腸栄養剤と市販の栄養補助食品の違いは、購入場所や価格だけではなく、栄養組成、使い方、病状への合い方、保険上の取扱いにあります。 切り替えたい時は、製品表示と処方内容を持参し、今の食事量と体調を医師・薬剤師・管理栄養士へ伝えてください。自分に合った量と方法を一緒に決めることが、無理なく栄養を続ける近道です。
- [4] 厚生労働省保険局医療課 (2026). 令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】p.55 栄養保持を目的とした医薬品(経腸栄養剤・濃厚流動食)の保険給付の適正化. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf (Accessed: 2026-08-17)
- [11] McClave S. et al. (2016). ACG Clinical Guideline: Nutrition Therapy in the Adult Hospitalized Patient. The American journal of gastroenterology. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26952578/ (Accessed: 2026-08-17)
- [15] da Silva J. et al. (2020). ASPEN Consensus Recommendations for Refeeding Syndrome. Nutrition in Clinical Practice. Available from: https://doi.org/10.1002/ncp.10474 (Accessed: 2026-08-17)
- [16] Milne A. et al. (2006). Meta-analysis: protein and energy supplementation in older people. Annals of internal medicine. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16389253/ (Accessed: 2026-08-17)
- [17] Volkert D. et al. (2022). ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. Available from: https://doi.org/10.1016/j.clnu.2022.01.024 (Accessed: 2026-08-17)







