
高齢の親の薬が多すぎると感じたら——家族が薬局・医師に相談するときの準備
【結論】記録を持参し薬局へ相談
自己判断の減薬は危険。家族の気づきと専門家の確認の両輪が必要。
- ポリファーマシーの目安は5剤以上だが定義は不統一。数より必要性の見極めが重要。
- 薬剤師は処方・飲み合わせ・残薬・体調変化を確認し、必要に応じ処方医へ連携する。
- 薬の現物や症状の変化時期を記録し、「やめてほしい」でなく「心配です」と伝える。
「薬を飲んだ後から、親がぼんやりしている気がする」「朝、昼、夕、寝る前と薬が並び、本人も家族も混乱している」。こうした場面で大切なのは、薬の数を見てすぐに一つ減らすことではありません。長く続けている薬の中には、急に中止すると病気が悪化したり、離脱症状(薬を急にやめたことで起こる体調変化)が出たりするものがあります。
一方で、薬の数や飲む時点が増えると、飲み方が複雑になり、管理の負担が大きくなることがあります。ただし、薬の数だけで複雑さが決まるわけではありません。高齢者では複数の病気を同時に治療することが多く、別々の医療機関で処方が重なることもあります。薬が多いこと自体を責める必要はありませんが、「今の親御さんにとって、どの薬がどのような目的で必要か」を定期的に確かめることは重要です。家族が気づいた変化は、診察室だけでは得にくい大切な情報です。
夜中に目が覚めて眠れない、食事量が減った、立ち上がるとふらつく、以前より会話が少ない。年齢や病気のせいだと思い込まず、薬を飲み始めた時期や量が変わった時期と重なるかを確認してください。薬が原因と決めつけることはできませんが、見直しの入口になります。可能であれば、薬の整理や相談は本人と一緒に行い、続けたい治療、不安に感じること、生活上の希望も記録しましょう。
薬が多すぎる?高齢者にポリファーマシーが起こる原因
ポリファーマシーとは、複数の薬を使用している状態を指す言葉です。研究では「5剤以上」を目安にすることが多いものの、世界的に完全に統一された定義はありません。大切なのは単純な数ではなく、薬の必要性、重複、副作用、飲み続けられるかどうかを一人ひとり考えることです。高齢者を対象とした系統的レビューでも、複数の病気があることと複数の薬を使用することはよく同時にみられますが、その割合には研究ごとの大きな幅があります。[6]
例えば、血圧、糖尿病、心臓、骨、睡眠、痛み、便通など、それぞれに治療の理由があれば薬が増えるのは自然です。心不全のある人では、治療指針に沿って複数の薬を使う必要があるため、薬が多い状態になりやすいことも報告されています。つまり、5種類飲んでいるから「危険」、3種類だから「安心」とは言えません。[11]
薬が増えるもう一つの理由は、症状に対して新しい薬が加わることです。たとえば、眠れないために睡眠薬、胃の不快感に胃薬、便秘に下剤というように、症状ごとに処方が追加されます。その症状が病気によるものか、別の薬の副作用によるものかは、薬の一覧だけでは判断できません。診察のたびに短時間で確認するのは難しく、家族の観察が役立ちます。
また、内科、整形外科、眼科、皮膚科など複数の医療機関を受診すると、全体像が見えにくくなります。処方薬だけでなく、ドラッグストアで買ったかぜ薬、痛み止め、胃腸薬、便秘薬、サプリメント(健康の維持を目的に使われる食品や製品)も確認が必要です。相互作用(薬どうしが影響し合い、効き目や副作用が変わること)は、処方薬と市販薬の組み合わせでも起こり得ます。
高齢者では、腎臓や肝臓の働きが若い頃と変わることがあります。腎臓は、薬やその代謝物を尿へ出す働きに関わる臓器です。そのため、以前は問題なく使えていた量でも、体の状態や脱水、食事量の変化をきっかけに影響が強く出ることがあります。ただし、症状の原因には感染症、脱水、病気の悪化など多くの可能性があります。家族が「薬のせいだ」と断定して中止するのは危険です。
薬の害を考えるときは、副作用だけでなく、服薬レジメン(薬をいつ、どのように飲むかという決まり)の複雑さも確認します。高齢者における研究の系統的レビューでは、複雑な服薬方法と飲み忘れ、入院の多さとの関連を示した研究がありました。ただし、結果は一貫しておらず、薬の複雑さだけが原因とは言えません。[16]
臨床現場では、薬の数が多いことよりも、「本人が何を飲んでいるか説明できない」「昼の薬だけ残る」「薬を飲んだ後に転びそうになる」といった具体的な困りごとの方が、見直しの手がかりになることが少なくありません。MogiMed編集部の見解では、「多すぎるかも」という家族の直感は、減薬を求める結論ではなく、安全確認を始める合図として扱うことが安全性を重視した捉え方です。
なお、適切なポリファーマシーという考え方もあります。複数の薬が、本人の病気を安定させ、生活を保つために必要な場合です。反対に、不適切なポリファーマシーとは、期待できる利益より不利益が大きい薬、同じような作用の重複、現在の状態に合わない薬などを含む状態を指します。薬を減らすこと自体が目標ではなく、利益と不利益の釣り合いを整えることが目標です。
家族が今すぐできること:薬の整理と症状の記録
相談前には、薬を元の包装や薬袋のまま一覧にし、本人が実際に困っている症状と飲み方を記録する準備が役立ちます。薬を包装から出して混ぜたり、本人の代わりに捨てたりする必要はありません。まず、処方薬、市販薬、目薬、塗り薬、貼り薬、吸入薬、サプリメントを確認します。服用中の薬と古い薬、中止済みの薬は分け、子どもや認知機能が低下した本人が誤って使わない安全な場所で管理してください。
古い薬や中止済みの薬は再使用せず、服用中の薬と分けてください。相談時は現物のほか、薬袋、包装、説明書、写真でも確認に役立ちます。残薬(飲まずに残っている薬)は、飲み忘れや飲み方の負担を知るための重要な情報です。不要薬の持参や廃棄を希望する場合は、対応できるか薬局へ事前に確認しましょう。
お薬手帳が複数ある場合は、できれば一冊にまとめます。お薬手帳には、薬の名前、飲み方、量、調剤日だけでなく、アレルギー歴、副作用歴、主な病気、普段利用する薬局などを記録する欄が必要とされています。紙か電子か、表紙の形が同じかよりも、記録が時系列で集まっていることが重要です。[10]
症状は「最近元気がない」だけで終わらせず、できる範囲で具体的にします。いつから、どの時間帯に、何をしたときに起こるかを短く書くだけで十分です。たとえば、「4月10日ごろから朝食後に眠そう」「夕食後の薬を飲むとふらつき、トイレへ行くのが不安」「3日便が出ず、下剤を追加した」といった記録です。薬を変更した日、入院や受診をした日、食事量が落ちた日も並べると、医療者が経過を読み取りやすくなります。
- 現在使っている薬の現物、薬袋、説明書、お薬手帳を集める
- 処方薬以外に、市販薬、目薬、貼り薬、サプリメントも書き出す
- 困っている症状を「いつから・いつ・どの程度」と短く記録する
- 飲み忘れ、飲めなかった理由、残っている薬、転倒や救急受診の有無を記す
ここで注意したいのは、家族が「この薬が怪しい」と決めつけないことです。症状と薬の関係には、専門的な確認が必要です。同じ眠気でも、睡眠薬、痛み止め、アレルギー薬などが関わることがありますし、薬とは無関係の病気が隠れている場合もあります。「この薬をやめてほしい」より、「この症状があり、薬との関係が心配です」と伝える方が、安全な話し合いにつながります。
服用時刻も重要です。朝食後の薬を昼に飲んでいる、寝る前の薬を夕食後に飲んでいる、食事を抜いた日にいつもの薬を飲んだ、といった情報は、薬の効き方や副作用を考える材料になります。飲み忘れを責める必要はありません。錠剤が大きくて飲みにくい、手が震えてシートから出せない、文字が読みにくい、食後という指示を守りにくいなど、理由を知ることが改善の第一歩です。欠食時や飲み忘れ時の対応は薬ごとに異なるため、次回以降の服用を自己判断で変更せず、医師または薬剤師に確認してください。
施設に入居している親御さんなら、服薬の回数も負担になります。長期介護施設での薬の簡素化は、1日の服用回数を減らす取り組みとして整理されており、服薬の負担や投薬時の誤りを減らす視点が示されています。ただし、昼にまとめればよいという意味ではありません。薬ごとに飲む時刻に理由があるため、変更には医師・薬剤師の判断が必要です。[2]
臨床現場では、「薬はきちんと飲めています」と聞いても、実際には数日分が残っていることがあります。本人が悪いのではなく、生活の中で続けにくい仕組みになっている場合があります。家族は監視役ではなく、本人が困っている点を一緒に言葉にする役割を担えます。MogiMed編集部の見解では、薬を一包化(飲む時刻ごとに薬を一つの袋にまとめること)しているかどうかも含め、実際の飲み方をそのまま伝えることが重要です。
意識がもうろうとして呼びかけへの反応が悪い、強い呼吸困難がある、顔や唇の腫れを伴う場合は、通常の薬の相談を待たず、119番通報を含む救急対応を考えてください。タール状の黒い便、繰り返す嘔吐、転倒後の頭痛や嘔吐、急に強くなった眠気なども、速やかに医療機関へ連絡してください。黒い便は鉄剤などで起こることもあるため、便の様子や体調も伝えます。判断に迷うときは、地域の救急相談窓口などを利用する方法もあります。
薬局・薬剤師に相談する際の準備と伝えるべき内容
薬局では「薬を減らせますか」だけでなく、本人の生活で起きている変化を具体的に伝えることが、適切な見直しにつながります。薬局の薬剤師は、処方内容、飲み合わせ、用法、残薬、体調変化を確認し、必要に応じて処方医へ情報を伝える役割を担います。薬局で相談したからといって、その場で薬を止めるわけではありません。安全に見直すための情報を整え、医師と連携する入口になります。
薬剤師に伝えるとよいのは、薬の名前だけではありません。親御さんが何に困っているか、どの生活動作が変わったかを具体的に話してください。「昼食後の薬を忘れる」「夜にトイレへ行くときにふらつく」「食欲が落ち、体重が減った」「飲んだかどうか分からず、もう一度飲んだかもしれない」といった情報は、確認の優先順位を決める助けになります。
薬局では、服薬管理に必要な情報として、アレルギー歴、副作用歴、併用薬、服薬状況、残薬、服用中の体調変化、本人や家族からの相談内容などを必要に応じて収集し、薬剤服用歴等に記録します。お薬手帳にも、薬剤情報に加えてアレルギー歴や副作用歴などを記録する欄が設けられています。家族がメモを渡すことは、遠慮すべきことではありません。[10]
- 「薬を飲む目的を、本人と家族にも分かるように教えてほしい」
- 「眠気やふらつきと、薬の変更時期が重なっていないか確認してほしい」
- 「同じような効き方の薬や、他院の薬との重複がないか見てほしい」
- 「飲む回数や剤形を、生活に合わせて相談できるか知りたい」
- 「医師へ伝えた方がよい内容を整理してほしい」
薬局での相談は、できれば薬を受け取る混雑した時間を避け、事前に「薬の見直しについて相談したい」と連絡すると、落ち着いて話しやすくなります。本人が来局できない場合でも、薬局によっては家族からの相談を受けられることがあります。ただし、本人の情報を扱うため、可能な限り本人の同意を得て相談しましょう。認知機能の低下などで本人が意思を伝えにくいときは、安全確保を優先しつつ、その状況を医療者へ伝えてください。
医師に相談するときも、家族のメモが役立ちます。診察では、優先して聞きたいことを二つか三つに絞ると伝わりやすくなります。「この薬は今も必要ですか」だけでなく、「転倒が2回ありました」「朝食を半分しか食べられません」「飲み忘れが週に3回あります」と伝えると、病気の状態、検査値、薬の利益と不利益を合わせて判断しやすくなります。
処方の見直しは、必ずしも中止だけではありません。量を調整する、飲む時刻を変える、重複を整理する、別の剤形にする、経過を観察するなど、選択肢はいくつもあります。減薬(不要または不利益が大きい可能性のある薬を、医療者の管理のもとで減量・中止すること)も、その一つです。高齢者の包括的な薬の見直しを扱ったランダム化比較試験の系統的レビューでは、多くの研究で薬の数または量の減少がみられ、主要評価項目上の安全性悪化は確認されませんでした。ただし、対象者や介入方法は研究ごとに異なり、個々の薬を自己判断で急に中止してよいことを示す結果ではありません。[18]
薬剤師が一般診療やプライマリケアのチームに組み込まれて薬物療法を見直す介入については、不適切な処方や薬の数を減らす可能性を示した系統的レビューがあります。一方で、生活の質や他の健康上の結果を改善するかについては、研究の確実性が低い、または明確ではない結果もあります。医療制度や薬剤師の関わり方は日本の地域薬局と異なるため、家族が薬局で相談すること自体の効果を直接示した研究ではありません。薬剤師への相談を万能な解決策と考えるのではなく、継続して情報を共有する仕組みとして活用することが現実的です。[19]
臨床現場では、薬の一覧がそろっただけで、重複や飲み間違いの可能性に気づけることがあります。特に、市販のかぜ薬や咳止め、痛み止めは、処方薬と成分や作用が重なることがあります。濫用等のおそれのある成分を含む一般用医薬品では、販売時に購入状況や使用目的、数量の確認が求められています。薬局で市販薬を買うときも、処方薬を飲んでいることを必ず伝えてください。[5]
MogiMed編集部の見解では、家族が薬局で果たせる重要な役割は、「処方箋には載らない生活情報」を届けることです。薬を飲んだ後の歩き方、食事、眠り、表情、飲み忘れ、介護する家族の負担は、薬の適切さを考えるうえで欠かせません。本人が「薬を減らすのは不安」と感じているなら、その気持ちもそのまま伝えてください。本人の希望を置き去りにした見直しは続きにくいためです。



まとめ:自己判断で中止せず、家族と医療者で薬を見直そう
親御さんの薬が多く見えると、不安になるのは自然なことです。しかし、薬の数だけで危険とは決められず、複数の病気を守るために必要な薬もあります。まずは、処方薬だけでなく市販薬やサプリメントも含めて確認し、飲み方と困っている症状を記録して、自己判断では中止しないでください。特に、ふらつき、眠気、食欲低下、便通の変化、飲み忘れ、転倒は、相談時に価値の高い情報です。
薬の適切さを改善する介入は、不適切な処方を減らす可能性を示していますが、入院や生活の質への影響は研究によって明確でない部分もあります。だからこそ、「薬を何錠減らすか」だけを目標にせず、本人が安全に、無理なく、納得して生活できることを目標にします。[12]
高齢の親の薬が多すぎると感じたら、答えは「家族だけで減らす」ことではありません。薬の現物または包装・写真と記録を持ち、薬局・薬剤師、そして処方した医師に相談することです。家族の気づきと医療者の専門的な確認がつながると、薬を続ける理由も、見直す理由も、本人に合った形で整理しやすくなります。
- [2] Maruoka H. et al. (2024). Statement on medication simplification in long‐term care facilities by the Japanese Society of Geriatric Pharmacy: English translation of the Japanese article. Geriatrics & Gerontology International. Available from: https://doi.org/10.1111/ggi.15009 (Accessed: 2026-10-08)
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