熱中症で脱水気味のときに痛み止め(NSAIDs)はなぜ注意が必要か

熱中症で脱水気味のときに痛み止め(NSAIDs)はなぜ注意が必要か

【結論】脱水時のNSAIDsは腎臓に負担

熱中症の対処は鎮痛薬でなく冷却と補水が優先されるため

  • 脱水で血流減少時、NSAIDsはプロスタグランジン産生を抑え腎血流を悪化させ急性腎障害の恐れがある
  • 薬剤師は腎機能値だけでなく飲水量・尿量・嘔吐下痢の有無・併用薬を総合的に確認して判断する
  • 頭痛だけで薬を選ばず、尿量減少や嘔吐など脱水サインがあれば服用前に薬剤師へ相談・受診を検討する

暑い日に頭がズキズキして、「いつものロキソプロフェンを飲めば楽になる」と考えることがあるかもしれません。しかし、汗を多くかき、水分が足りていないときの痛み止めは、普段と同じ感覚で選ばないほうが安全です。熱中症では、頭痛そのものより先に、体温上昇や脱水への対応が必要な場合があります。

とくに注意したいのは、尿が極端に少ない、口が強く乾く、立つとふらつく、吐き気で飲めない、ぼんやりするといった状態です。これらがあるときは、単なる「夏の頭痛」と決めつけないでください。重症型の熱射病では意識障害や多臓器障害につながることがあり、早い認識と対応が重要です。[17]

夜中に暑さで目が覚め、水もあまり飲めないまま頭痛だけを抑えようとしていませんか。痛みを消すことが、原因への対処になるとは限りません。体が熱を逃がせず、水分も失っているときには、薬を飲む前に「今は脱水ではないか」を考えることが大切です。

脱水時にNSAIDsが腎臓へ負担をかける理由

NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬。痛み、炎症、発熱を抑える薬のグループ)には、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナクなどがあります。NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼという酵素を阻害し、痛みや炎症に関わるプロスタグランジンの産生を抑えます。プロスタグランジンは、腎臓の血管を広げて血流を保つ働きにも関係します。

腎臓は、血液から老廃物や余分な水分をこし取り、尿を作る臓器です。汗を多くかく、下痢や嘔吐がある、飲水量が少ないといった状況では、体内を循環する血液量が減ります。すると、腎臓に届く血液も減りやすくなります。体は血圧や腎臓の血流を保とうとしますが、その余力が小さくなっていることがあります。

脱水などで血液量が減ったとき、腎臓はプロスタグランジンの作用も使って血流を保とうとします。このようなときにNSAIDsを使うと、この調整に関わるプロスタグランジンの産生まで抑えられ、腎臓のろ過機能がさらに低下する可能性があります。急性腎障害(短期間で腎機能が低下する状態)につながるおそれがありますが、一度飲んだから必ず起こるという意味ではありません。脱水という条件が重なることが問題です。

小児を対象としたイブプロフェンの文献レビューでは、腎臓への影響は通常小さいとされる一方、脱水が腎障害を起こす重要な引き金になり得るため、嘔吐や下痢がある子どもには投与しないよう述べられています。[19]これは小児に関する知見であり、成人の熱中症患者での危険度を直接示したものではありません。ただし、脱水時にNSAIDsが腎血流の維持に影響し得る仕組みは、成人でも薬を選ぶ際に考慮されます。

別の小児レビューでも、体液量が減った状態でイブプロフェンを使うと急性腎不全のリスクが示唆され、脱水リスクのある病気では推奨されないとされています。[20]大人でも、高齢者、腎臓病がある人、心不全や肝疾患がある人、利尿薬を使っている人は、脱水の影響を受けやすいことがあります。自分では軽い脱水と思っていても、腎臓にとっては余裕のない状態かもしれません。

臨床現場では、腎機能の数値だけでなく、飲めている量、尿量、嘔吐や下痢の有無、血圧、普段使っている薬を合わせて判断します。MogiMed編集部の見解では、熱中症の最中に「頭痛があるからNSAIDs」と決めず、脱水のサインを先に確認することが安全につながります。

なお、NSAIDsは腎臓だけに注意すればよい薬ではありません。胃腸の粘膜を傷つけ、胃痛や出血の原因になることがあり、喘息、心血管疾患、抗凝固薬(血を固まりにくくする薬)の使用などでも確認が必要です。脱水時は胃腸の不調も起こりやすく、空腹のまま服用する状況も重なりがちです。いつもの市販薬でも、夏場の体調不良では条件が変わります。

熱中症が疑われるときにまず行う対処法

熱中症が疑われるときの優先順位は、痛みを薬で抑えることではなく、熱と水分不足に対応することです。熱中症は、暑さによって起こる健康障害の総称で、めまい、頭痛、吐き気などから重症の状態まで含みます。なかでも熱射病は、高体温と中枢神経系(脳や脊髄)の異常を特徴とする重症型で、体温が40℃を超え、意識障害や臓器障害を起こすことがあります。[2]

呼びかけへの反応が鈍い、会話や行動がおかしい、まっすぐ歩けない、けいれんがある、自力で水分を飲めないときは、直ちに119番へ通報してください。何度も吐く場合も、家で様子を見る段階ではありません。救急車を待つ間も、安全を確保しながら冷却を続けます。

  • まず、冷房のある室内、日陰、風通しのよい場所へ移動します。
  • 衣服をゆるめ、首、わきの下、足の付け根などを冷やします。
  • 意識がはっきりして飲み込める場合は、水分と電解質を少量ずつ補給します。
  • 意識が悪い、吐いている、飲めない場合は、無理に飲ませず119番通報を優先します。

水分だけではなく、汗で失われた電解質(ナトリウムやカリウムなど、体内の水分バランスや神経・筋肉の働きに必要な成分)も考える必要があります。大量に発汗した後であれば、経口補水液などを少しずつ使う選択肢があります。ただし、意識が低下している人や飲み込む力が弱い人に無理に飲ませると、むせ込みや誤嚥(飲食物が気管に入ること)の危険があります。

重症の熱射病では、受け身で休むだけではなく、積極的な冷却が推奨されます。Society of Critical Care Medicineの2025年ガイドラインは、熱射病では受動的冷却より積極的冷却を推奨し、可能な環境では冷水または氷水への浸水が最も速い冷却法であるとしています。[1]ただし、意識が悪い人を家庭の浴槽へ入れると、溺水や転倒の危険があります。監視できる人や安全な環境がない場合は無理に全身を浸けず、体に水をかけて送風するなど、安全にできる冷却を続けてください。

一方で、NSAIDsやアセトアミノフェンなどを使っても、熱中症による高体温への対処として冷却の代わりにはなりません。ガイドラインでも、熱射病患者に体温調節へ影響する薬物療法を行う根拠はなく、避けるべきとされています。[1]アセトアミノフェンはNSAIDではなく、NSAIDsと同じ腎血流低下の仕組みを中心とする薬ではありませんが、自己判断でNSAIDsの代わりに飲んで熱中症を治療できるわけではありません。

臨床現場では、「熱があるから解熱薬」という発想が熱中症では通用しないことを重視します。体が外の熱や運動による熱を逃がせずにいる場合、必要なのは冷却です。MogiMed編集部の見解では、冷やす、水分を補う、重症サインを見逃さないという順序を守ることが、薬を急いで飲むよりも重要です。

救急車を待つ間も、可能であれば冷却を続けます。冷水に浸かる方法は場所と安全管理を要しますが、濡れたタオル、冷水、送風などを組み合わせることはできます。運動中の熱中症や高温環境での作業中に急に意識がおかしくなった場合は、症状が短時間で進むことがあります。薬を探す時間よりも、周囲に助けを求める時間を優先してください。

痛み止めを飲む前に薬局・薬剤師へ相談したいこと

熱中症が疑われるとき、痛み止めを使えるかどうかは「薬の名前」だけでは決まりません。脱水の程度、痛みの原因、持病、ほかに使っている薬によって判断が変わります。薬局で相談するときは、「頭痛があります」だけでなく、暑い場所にいた時間や汗の量、飲めている量、尿の回数も伝えると判断しやすくなります。

朝から屋外で作業し、頭痛と吐き気があり、尿がほとんど出ていないなら、NSAIDsを飲めるかより先に受診の必要性を考える場面です。反対に、十分に水分が取れ、涼しい環境で休み、熱中症らしい症状がなく、別の明らかな痛みがある場合でも、持病や併用薬の確認は欠かせません。

  • いつから暑い環境にいたか、運動や作業の内容、汗の量を伝える。
  • 水分を飲めているか、嘔吐や下痢があるか、尿量が減っていないかを伝える。
  • 腎臓病、心不全、高血圧、胃潰瘍、喘息などの持病を伝える。
  • 利尿薬、血圧の薬の一部、抗凝固薬、ほかの痛み止めを使っているか確認する。

利尿薬は尿を出しやすくする薬で、むくみや高血圧などに使われます。暑い日に汗をかくことと重なると、体内の水分が不足しやすくなることがあります。また、複数の医療機関から薬が出ていると、知らないうちにNSAIDsが重なる場合があります。市販のかぜ薬、頭痛薬、腰痛薬にもNSAIDsが入っていることがあるため、成分の重複に注意が必要です。

薬剤師に相談する際は、お薬手帳や服用中の薬の写真を見せると確実です。「ロキソニンを飲んでいます」だけでは、内服薬、貼付薬、配合薬の違いが分からないことがあります。特に内服NSAIDs同士の重複は避け、貼付薬なども含めて薬剤師に確認してください。NSAIDsを重ねても効き目が単純に強まるわけではなく、副作用のリスクを増やすおそれがあります。

子どもの場合は、体重に応じた量が必要であり、大人用の薬を分けて使うことは避けるべきです。前述のとおり、小児では脱水とイブプロフェンの腎臓への影響が特に問題になります。[19]発熱、嘔吐、下痢、ぐったりしている様子がある子どもに対しては、痛み止めを先に使うよりも、医療機関や相談窓口へ連絡する判断が大切です。

高齢者も注意が必要です。のどの渇きを感じにくい、トイレを心配して飲水を控える、複数の薬を服用しているといった事情が重なりやすいためです。熱波関連死亡のメタ解析では、寝たきり、自力で身の回りのことができない、外出しないことなどが死亡リスクと関連していました。また、自宅での冷房使用や涼しい環境を訪れることは、よりよい転帰と関連していました。[10]

利尿薬や血圧の薬の一部を使っている人では、脱水時に腎機能への影響が大きくなることがあります。ただし、処方薬を自己判断で中止せず、服用方法は医師または薬剤師へ相談してください。臨床現場では、本人が「大丈夫」と言っていても、家族から「今日は尿が少ない」「朝から食べられていない」と聞くことで危険性が見えてくることがあります。MogiMed編集部の見解では、痛み止めの相談を、今の水分状態を確認する機会として活用するのがよいと考えます。

熱中症や脱水が疑われるときは、NSAIDsより冷却と状態確認を優先する

NSAIDsは、適切に使えば多くの痛みに役立つ薬です。だからこそ、「熱中症かもしれない」「水分が足りていないかもしれない」という場面では、いつもの使い方をそのまま当てはめないことが重要です。脱水があるときは、腎臓が血流を保とうとしている可能性があり、NSAIDsがその調整に影響するおそれがあります。

暑さによる頭痛やだるさでは、鎮痛薬で頭痛が一時的に軽くなっても、脱水や熱中症そのものが改善したとは判断できません。意識の変化、嘔吐、歩行困難などが加わると緊急性が高まります。古典的熱射病をまとめたレビューでは、意識障害、低血圧、腎臓・肝臓・心臓の障害、血液が固まりにくくなる異常などが早期からみられ、迅速に認識・治療しないと臓器不全へ進み得ると報告されています。[17]

「水を飲んだから大丈夫」とも限りません。吐き気で十分に飲めない、飲んでも吐いてしまう、尿が出ない場合は、水分不足が改善していない可能性があります。意識がはっきりしており、むせずに飲めるなら経口補水液を少量ずつ使えますが、飲めることだけで重症ではないとは判断できません。異常な言動、歩行困難、けいれん、強い嘔吐があれば、飲水の可否にかかわらず119番通報が必要です。

また、熱中症による高体温は、感染症の発熱とは異なります。NSAIDsやアセトアミノフェンを使っても、体にたまった熱を外へ逃がす治療の代わりにはなりません。熱射病への対応では、積極的な冷却が中心であり、体温に作用する薬物治療は支持されていません。[1]

救急受診を考える目安としては、意識がおかしい、自分で水分を取れない、けいれんがある、胸痛や息苦しさがある、強い頭痛が続く、何度も吐く、症状が冷却と休息で改善しない、といった場合が挙げられます。これは診断を自分で行うための基準ではなく、「薬局で薬を選ぶ前に医療につなぐべき可能性があるサイン」です。

薬局では、薬剤師が市販薬と処方薬の重複、持病との関係、脱水の疑いを確認できます。受診が必要と考えられる場合には、薬を販売することよりも医療機関への案内が優先されます。医師に聞けなかったことがあっても、薬局で「暑い場所にいて、尿が減っていて、頭痛がある」と具体的に伝えてください。

熱中症が疑われるなら、まず涼しい場所へ移動し、体を冷やし、飲める状態なら水分と電解質を補います。そのうえで、痛みが残る、症状の原因がはっきりしない、持病や併用薬がある場合は、薬剤師や医療機関へ相談します。

熱中症で脱水気味のときに痛み止め(NSAIDs)はなぜ注意が必要かという問いへの答えは、脱水で血流が減った腎臓にNSAIDsがさらに負担をかけるおそれがあり、熱中症の中心的な対処は鎮痛薬ではなく冷却と補水だからです。頭痛を急いで消すよりも、体が出している暑さと脱水のサインを見逃さないことを優先してください。

  1. [1] Barletta J. et al. (2025). Society of Critical Care Medicine Guidelines for the Treatment of Heat Stroke. Critical care medicine. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39982186/ (Accessed: 2026-08-01)
  2. [2] Douma M. et al. (2020). First aid cooling techniques for heat stroke and exertional hyperthermia: A systematic review and meta-analysis. Resuscitation. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31981710/ (Accessed: 2026-08-01)
  3. [10] Bouchama A. et al. (2007). Prognostic factors in heat wave related deaths: a meta-analysis. Archives of internal medicine. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17698676/ (Accessed: 2026-08-01)
  4. [17] Yezli S. et al. (2023). Classic heat stroke in a desert climate: A systematic review of 2632 cases. Journal of internal medicine. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36951097/ (Accessed: 2026-08-01)
  5. [19] Barbagallo M. et al. (2019). Ibuprofen in the treatment of children's inflammatory pain: a clinical and pharmacological overview. Minerva pediatrica. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30574736/ (Accessed: 2026-08-01)
  6. [20] Leroy S. et al. (2007). [Ibuprofen in childhood: evidence-based review of efficacy and safety]. Archives de pediatrie : organe officiel de la Societe francaise de pediatrie. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17344039/ (Accessed: 2026-08-01)
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